「脚本 演出 キャストの演技等 どの要素をとっても高水準の傑作だけど 感心すれども感動せず 楽しむだけ楽しんで簡単に忘れてしまいそうな映画」ワン・バトル・アフター・アナザー Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本 演出 キャストの演技等 どの要素をとっても高水準の傑作だけど 感心すれども感動せず 楽しむだけ楽しんで簡単に忘れてしまいそうな映画
いやぁ、鑑賞してる最中にはこれは当たりだ、と感じていたわけですよ。それこそ、トム•f___in’•クルーズ(劇中でベニチオ•デル•トロ演ずるセンセイがこんなお上品な呼び方をされてました。聞き間違いかしらね)が飛行機と戯れていたあの映画より、はるかに面白いなと思って観ておりました。でも、終盤でのショーン•ペン演ずるロックジョーの暴れっぷり、やられっぷり(1度ならず2度までも)やら、長々と展開するカーチェイスなんぞを見ていると話の進め方にあざとさを感じ始め、そう言えば、物語に登場する組織(「フレンチ75」と「クリスマスの冒険者たち」ね)の描き方も月並みと言えば月並みであまり弾けてないなあと思えてきました。こういうの、タランティーノだったら、もっとうまく作るのになあ、とも。
まあでも、基本的には十分、楽しめたわけです。レオナルド•ディカプリオ演じる主人公ボブのダメ男ぶりなんか最高でした。酒浸り、ヤク浸りのせいかなんか知らないけど、大事な合言葉をすっかり忘れちゃってるし、若者たちの後ろについて追手から逃げるときのあのドタドタとした走りっぷりときたら…… 還暦すぎてもなお美しいランニング•フォームで走るトム•ファ…じゃなかったトム•クルーズに対するアンチ•テーゼを見事に体現しておりました。対して、「ホワイト•トラッシュ」とか「レッド•ネック」とか呼ばれる白人下層階級の出身と思われるも、上昇志向が強く、違法移民を取り締まる特務部隊の隊長みたいなところまで出世した、ショーン•ペン演ずるロックジョーのヘンタイぶりもなかなかのものです。ただ、彼の場合はなんとなくトランプ支持者を思いっきり戯画化したキャラクターではないかと感じられたので、クリスマスなんちゃらとかいう白人至上主義の秘密結社めいた組織とともに描き方にもう一捻り欲しかったなと思いました。
結局、PTA監督、なんかちょっと日和っている感じがします。小器用に無難にまとめてる感じ。移民問題とか社会の分断とかいうアメリカの今日的テーマを取り入れてはいるのですが、なんかハリウッド大作もアップデートしてるんですよ、というアリバイ工作のためにそうしてるみたいな感じで、これ、ぶっちゃけハリウッドの論理に従って高い興行収入を目指して作られた娯楽作で、軽いと言えば軽いし、薄いと言えば薄いかな。まあ楽しかったからいいや、と言えばまったくその通りなんですけどね。でも、大袈裟な言い方をすれば、PTAよ、オスカー欲しさに悪魔に魂を売り渡しちゃったの? てな感じです。PTA監督の過去作には、例えば『マグノリア』があります。ほぼ四半世紀前の作品ですが、私、はっきりとこの作品のことを今でも憶えています。そう言えば、トム•ファ…じゃなかったトム•クルーズがなんだか怪しげなカリスマ講演者をやってたなあとか、クライマックスにとんでもないことが起こるんだよなとか。でも、こっちの「ワンバト」のほうはすぐに忘れてしまいそうです。
でも、そのほうがいいかも。203X年、すっかり耄碌爺いになった私は、配信で懐かしの『マグノリア』を鑑賞した後、おススメにワンバトなんちゃらとかいう作品が挙がってるのに気付きます。「へー、PTAって、こんなのも撮ってたのか。面白そうだな。観てみよっと」そして、以前に観てたことなどすっかり忘れている私は鑑賞して大満足するわけです。「ふうむ、この映画のいいとこは、主人公のボブが本当にボンクラなダメ男だけど、幸せそうな老後を過ごせそうなとこかな。老後がなくなっちゃった登場人物もいたけど」
そう、忘れるってとってもいいことなんですね(キーワードや暗証番号はメモしてね)。センセイも「忘れること、それ即ち、自由になることだ」とか言ってたし。あれれ、記憶が混濁してる?
雨ニモ負ケ 風ニモ負ケ
夏ハ ナンダコノ暑サハ 脳ガ溶ケソウダ
冬ハ クソ寒クテ凍エソウダ ト愚痴ヲコボシ
健康ノ為ニ始メタジョギングハ ドタドタシカ走レズ 三日デ断念シ
食ベルコトガ最大ノ楽シミナノニ 朝食ベタモノヲ昼ニハ 昼食ベタモノヲ晩ニハ忘レ
旧友ノ名前ガ思イ出セズ ヲロヲロスルモ
誰カヤ何カヲ愛スルコトハ忘レズニ 好キナコトハズット好キト言イ続ケル
ソンナ老人ニ私ハナリタイ
皆様の老後に幸多からんことを…
共感ありがとうございます。アメリカ内部の分断を描いたという意味では「シビル・ウォー」と並ぶ記念碑的作品だと思います。「フレンチ75」と「クリスマスの冒険者たち」はそれぞれが相手方に抱いてるイメージ(あのファッキンな奴らはあんなのだぜ、こんなのだぜ)を具体化するとああなるというところが面白い。でも、現実がどんどん追いついてくるところがおっかないですね。
共感ありがとうございます。
合言葉や暗証番号をメモに残しておくと悪用必至の時代だと思います。
ちょっとイイ風に終わって少し物足りなく感じましたが、コレが現在の表現の限界だとしたら彼の国、ちょっと怖いですね。
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