劇場公開日 2025年10月3日

「PTAの職人芸に心酔」ワン・バトル・アフター・アナザー ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 PTAの職人芸に心酔

2025年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

興奮

 2時間40分強という長丁場のわりにドラマが意外にシンプルで、正直少し食い足りなかった。物語の根底に現在のアメリカが抱える問題を忍ばせていることは確かである。しかし、本文はあくまでボブたち家族が辿る数奇なドラマであり、社会派的なメッセージを消化し切れていないという感じがした。

 ただ、ポール・トーマス・アンダーソン監督の卓越した演出に心酔しながら、最後まで面白く観ることが出来たのも事実である。
 市井に根差した群像劇、重厚な人間ドラマ、ポップなロマンス等、これまでに様々なトーンの作品を撮ってきた氏にとって、ここまでサスペンス、アクション、コメディがてんこ盛りなエンタメ作品は初めてではないだろうか。社会派作品ではなく敢えてエンタメに振り切っているようにも見える。

 まずオープニングの移民収容所の襲撃シーンから引き込まれた。スピーディーな展開と怒涛のアクション。そして、革命組織”フレンチ75”の女性リーダー、パーフィディアと爆弾のプロ、ボブの恋愛萌芽を衝動的に描きつつ、適役となるロックジョー大佐の悪鬼の如きキャラを明確に提示しながらドラマの芯を早々に屹立させた手腕は見事である。前振りとなる”前菜”を省略していきなりメインディッシュの皿にコッテリ系の具材を盛ってしまうという”剛腕”ぶりに魅了された。

 ボブと娘ウィラが身を隠す”バクタン・クロス”の町が一夜にしてカオスと化す中盤のシーンも凄まじい。エネルギッシュな描写の連続にグイグイと引き込まれた。

 更に目を見張るのはクライマックスのカーチェイスシーンである。ちょっと今まで見たことがないような映像で撮られていて面白かった。
 これまでも映像に並々ならぬこだわりを見せてきたアンダーソン監督だが、前作「リコリス・ピザ」あたりから余りカッチリとした画作りを目指すのではなく、見せ場となるポイントに絞って技巧的な撮影に挑んでいるような気がする。このクライマックスなどは正にそう思えるシーンだった。

 キャスト陣の妙演も非常に楽しめた。
 スラップスティックな要素を持つ本作では個々のキャラもかなりカリカチュアされており、夫々に”やり過ぎ”と思えるくらいの演技を披露している。
 ボブを演じたレオナルド・ディカプリオのルーザーっぷりは白眉で、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を彷彿とさせるラリッた演技は最高に笑えた。
 ロックジョーを演じたショーン・ペンのサイコパスすれすれな怪演、窮地に陥ったボブを助ける柔道の”センセイ”を演じたベニチオ・デル・トロの飄々とした演技も良い味を出していた。

 今作は音楽もかなり主張している。もはやアンダーソン映画の常連と言った感じのジョニー・グリーンウッドによるスコアがほぼ全編に渡って流れ、各シーンをシームレスに繋ぎながらユーモアとサスペンスを断絶させることなく上手く盛り立てている。

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