「ダメ親爺、奮闘す」ワン・バトル・アフター・アナザー ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
ダメ親爺、奮闘す
〔タイタニック(1997年)〕の撮影時、二十二歳。
とんでもない美青年だった『ディカプリオ』も
今や齢五十となり、顔や身体は一回り大きく肥え
額も後退し横皺が幾筋も刻まれる。
本作ではその見た目通り、
どたばたと鈍重に走り回り、
やることなすこと上手く行かない。
ん?これはやはり、
還暦を優に超えてももてまくり、
アクションもこなす『トム・クルーズ』へのアンチテーゼであり、
一種の「アンチヒーロー」なのか?
『ボブ(レオナルド・ディカプリオ)』は
収容所から移民を救出する極左革命グループ「フレンチ75」の一員。
恋仲になったグループのメンバー『パーフィディア(テヤナ・テイラー)』は
娘を産み落としたのち警察に囚われ、
組織の秘密を白状したのちに姿を消す。
警察官の『スティーブン・ロックジョー(ショーン・ペン)』は
黒人女性の『パーフィディア』に異常なまでの性的関心を向け、
彼女を追い回す。
『パーフィディア』が姿を消してから十六年。
『ボブ』は愛した女の忘れ形見『ウィラ(チェイス・インフィニティ)』の面倒を甲斐甲斐しく見、
偽名を騙り、追手から身を隠し暮らしていた。
『ロックジョー』は腹に一物あり、
父娘の行方を総力を挙げて追う。
十六年の比較的平穏な歳月は
『ボブ』を自堕落な凡人に変えてしまっていた。
酒とドラッグに蝕まれ、
組織とのコンタクトを取るために必要な合言葉すら
忘れてしまう始末。
逆に今まで修羅場を経験したことのない『ウィラ』こそが
意識高くことに対処する。
主人公であるハズの『ボブ』は右往左往し、
ばたばたするだけで、
結局は何もできていない。
その不甲斐なさには、
観ていて思わず失笑を漏らすほど。
しかし、彼と娘は多くのカラードに助けられる。
根底にあるのは、人種に偏見の無い向き合いなのだろう。
その対極に『ロックジョー』が居る。
「WASP」の結社入りを目指す彼は
過去の汚点を消すため、自身が所属する組織さえ無制約に利用する。
あながち笑っていられないのは、
「DOGE」により政府の歳出削減を進める一方で、
自分の誕生日に大規模な軍事パレードを開く大統領がいる国だからで、
然もありなんと思えてしまう。
いわんや、白人結社の存在をや。
監督の『ポール・トーマス・アンダーソン』の
前作〔リコリス・ピザ(2021年)〕は、起伏のある脚本が見事だったが、
本作ではジェットコースターなみに高低差の激しい道路での
チェイスシーンが出色。
よくぞこんな場所をロケハンしたものと感心する。
そして前作で1970年代のロサンジェルスに捧げたのと同じ熱量を、
今回はとことん駄目な中年男に捧げている。
彼も当年取って五十五歳の、れっきとした中年なのだな。
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