「PTA×レオの必然の初タッグは、“ワン・エンタメ・アフター・アナザー”なマスターピースだった!」ワン・バトル・アフター・アナザー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
PTA×レオの必然の初タッグは、“ワン・エンタメ・アフター・アナザー”なマスターピースだった!
レオナルド・ディカプリオは『ブギーナイツ』の出演を断った事がキャリア最大の後悔と語るほどポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)監督作への出演は28年越しの悲願らしいが、私もPTA監督の作品を劇場で観るのは『マグノリア』以来25年ぶり。インディーズの雄であるPTA監督の作品は地元どころか隣町でもなかなか上映しないので…。
そんなPTAが製作費1億ドル以上をかけたキャリア最大の大作! 珍しい全国メジャー公開。
PTA監督作としてもレオ主演作としても、こりゃいい意味で裏切られた…!
概要は、娘を拐われた元革命家の男が娘を探す。
立ちはだかる障害や刺客からレオがカッコ良く…と思ったら、レオ様ファン失望レベル!
かつて燃えていた革命魂は何処へやら…? 落ちぶれて、まあ何と情けなくカッコ悪く。終始ダサい部屋着姿で、一日中ラリってる。娘を拐われ、何者かに追われ逃げ、ずっとテンパってあたふた。
嗚呼、豪華客船で世界の王子様やってたレオが…。でも、そんなレオが最高!
カッコ悪さたっぷり、悲哀や哀愁もたっぷり、だけど何だかんだ娘を思う父を滲ませ、自身の中でまた熱い何かを滾らせていく。
そんな芸当が出来るのも今のレオだからこそ。風貌はもはやジャック・ニコルソンだが、風貌だけじゃなく演技も存在そのものもその領域へ。
これまで群像スタイルや狂気と重厚、愛すべき小品と様々な人間ドラマを描いてきたPTA。今回も真面目な作品かと思ったら、PTAファンもびっくりのこりゃある意味おバカ映画! しか~し!
アクション、犯罪、コメディなど織り交ぜたキャリア初とも言えるエンタメに振り切り、それでいて移民、人種問題、白人至上主義への風刺など変わらぬ人間ドラマスタイルそのままに、最後は家族愛で締める。
『ブギーナイツ』『マグノリア』の頃からずっと思ってたけど、天才か! 天才はずっと天才。そんな監督も世界広しと言えどもPTAレベルはなかなか居ない。
天才監督と天才俳優が遂に組んだんだもの。勝ったも同然。
PTAの語り口が見事。
レオ演じる主人公ボブも革命家として活動していたが、一際熱かったのは、出会い後に妻になったペルフィディア。
移民や人種差別を受ける人たちの為に権力と闘う。
熱く激しくカッコ良く、時にセクシー。実は出番は序盤だけなのだが、そうとは思わせないインパクト。
演じたテヤナ・テイラー、何本か見た作品に出てたようだが、本作でしかと認識。
彼女にKOさせられたのは私だけではなかった。
移民摘発を行う軍人、スティーヴン。ペルフィディアの奇襲を受けた際、屈辱とおっ勃たせられる。
以来、ペルフィディアに異常なまでの性的執着を。超ド変態!
そんなヤベー奴を、まさかショーン・ペンが演じるとは…!
しかし彼もまたハリウッド随一の名優。思い出しただけでも笑っちゃうくらいの怪演と凄み。レオより目立ってた…?
お気に入りは終幕エピソードの直前。生きてたのかい!(だけど哀れな最期…)
情熱的な恋に落ち、革命活動にも熱が入り、やがて二人の間に生命が…。
その事で二人の間に感情の違いが…。ボブは家族で穏やかな暮らしを望み、ペルフィディアは革命活動を続けたい。…
ある一件でペルフィディアは過って人を殺してしまう。捕まり、仲間を密告してしまう…。
革命活動に終焉の時が…。ボブは産まれたばかりの娘を連れて別地へ。ペルフィディアはスティーヴンと“ある取引”をして解放され、メキシコへ逃げる…。
16年後。
だらしない中年オヤジになったボブと、ティーンエイジャーに成長した娘ウィラ。
父娘仲良く穏やかに…と言いたい所だが、関係は最悪。過保護な父に自立精神溢れる娘は反発。古今東西あるある。
その日常を脅かす者が…。勿論スティーヴン!
移民摘発の活躍が認められて、栄えある白人至上主義団体への入会が内定したスティーヴン。
変態スティーヴンでも感激だが、厳しい審査。その一つに、白人以外の連中と関係はないか?
ありません!…と断言したい所だが、ありま~す!
ペルフィディアに性的強要を。その証拠を消す。
その過程で、ウィラに娘がいる事を知る。
何処ぞのクズとパパ娘してるらしいが、何を言っている! 父親は俺だ! あの時、情熱的な愛を…(と思い込んでいる)。でも実は…。ネタバレになってしまうので伏せ。
娘である事の確認と、その隠蔽。変態で傲慢で自分勝手の極み。
ゴロツキを使って“掃除”。かつての仲間が襲撃されていく。
辛うじてボブにも連絡。ボブ自身、仲間同士の暗号をすっかり忘れていたけど。
かくしてウィラは拐われ…。
これが因縁あるスティーヴンの魔手と分かり、逃げる逃げる!
執拗に追う追うスティーヴン。
逃げるボブの顔にはっきりと。何で今更こんな目に~?!
あっちでトラブル、こっちでトラブル。
追い、逃げ、追い、逃げ…。
探して探して。
気付けばアメリカからメキシコ辺境にまで。
ダメダメ、イカレ、へんちくりん…。出てくる奴にまともな人が居ない!
ウィラが通う空手道場の“センセイ”ベニチオ・デル・トロ。飾ってある『スーパーマン』の日本版ポスターの事を聞きたい。
レオの娘役でスクリーンデビューのラッキーガール、チェイス・インフィニティ。フレッシュな魅力と名前の通り無限の可能性を秘めている。
逃走追跡劇…もとい、ドタバタ珍道中を盛り上げる臨場感あるカメラワーク。極め付けはクライマックスのカーチェイス。連続する坂道がうねる波のようで、面白い見せ方! これ、4DXでもし座席がアップダウンしたらスゲーと共に車酔いするだろうなぁ…。
PTA常連ジョニー・グリーンウッドの独特の音楽がこれまたピタリとハマる。
ハラハラドキドキスリリングなアクション、シュールなコメディ、終着点不明のクレイジーさ、強烈個性キャラ…。
娯楽に次ぐ娯楽。タイトルに絡めて“ワン・エンタメ・アフター・アナザー”と言いたい。
社会派テーマやメッセージも突き刺さる。
人や命が物のように扱われるアメリカ~メキシコ国境の犯罪多発地帯。現状に戦慄する。
それ故問題になる移民。違法や犯罪に関わるのは一部。多くが自由を求めてアメリカへ。そこで受ける迫害摘発の現実…。双方に立場や言い分があり、難しい問題。
移民たちは非白人や非アメリカ人。ここは、アメリカ白人のもの。白人至上主義団体の圧…。あんなKKKみたいな団体が今もあるなんて…! しかも社会的権力者たちで構成されているから質が悪い。
これほどの要素と160分超えのボリューム。力量に乏しい監督だったら破綻している事だろう。
ちと私自身迷走しそうにもなったが、最終的にはどっぷりの見応えと面白さ。何かこれ、じわじわ来る。
やっぱスゲーわ、PTAは…。
ラストシーンは、何処かで生きてるかもしれない母ペルフィディアからの手紙と、関係より良くなったボブとウィラ。
母の熱き魂を継ぐかのように、ウィラは抗議運動へ。そんな愛娘の姿を噛み締めるように見送るボブ。
何だかそのシーンのレオが、オスカーも有力視されるPTAの作品に念願の出演を果たし、新たなマスターピースとなり、充実感と幸福感噛み締めているように見えた。
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