「タイムリーでドメスティックな社会風刺色強めのPTA風活劇」ワン・バトル・アフター・アナザー ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムリーでドメスティックな社会風刺色強めのPTA風活劇
前置きに当たる過去エピソードが長くて、登場人物の性癖の話ばかり目立ってちょっと眠くなったが、ディカプリオが逃げ始めてからは楽しめた。
序盤のみの登場で強烈なインパクトを残したテヤナ・テイラーの面構えには、恐れを知らないペルフィディアにぴったりの強烈なオーラがあった。溢れる性欲を隠しもせず、何とショーン・ペンをレイプするという、他の映画なら男性がやるような行動を見せるのが、是非はともかく新鮮ではあった。
ただ、移民を脱出させるだけならまだしも、革命を叫んだところで銀行強盗は単なる犯罪だし、子供を放棄した上仲間を売ってメキシコに逃げるしで、あまり好意的な関心を持てるキャラではなかった。
一方、ボブは笑える言動や情けない振る舞いが多くて可愛げがあった。そんな彼が、逃走中の身でありながら娘を追っていき、戦って娘を守るとまではいかないものの再会して親子の絆を確かめる場面は、血縁の有無など関係ないと思わせるあたたかさがあってよかった。
ディカプリオは、弱さをさらけ出す男を魅力的に演じるのがとても上手い。合言葉を忘れて融通の利かない相手にイライラする場面は笑えたし、センセイの車から飛び降りる時思い切りが悪くてカッコつかないところや、屋上でスケボー男子たちについて行けず道路に落ちてしまう場面には親近感が湧いた。ステレオタイプな「男らしい活躍」からはとことん遠ざけられているボブというキャラクターがとても人間臭く、身近な存在に見えた。
今更だが、彼は本当によいキャリアの重ね方をしていると思う。もちろん若い頃から演技は天才的に上手かったが、一度はアイドル的にブレイクした俳優が、第一線にい続けながらジャック・ニコルソン系(私の主観)の癖つよ中年俳優に進化するというのはあまり例がないのではないだろうか。
映画で名前が出たから言うが、ずっとかっこいいヒーローであり続けるトム・クルーズとはある意味対極のタイプだ。(どっちも最高だけど!)
センセイのファンタジーに近い万能ぶりには笑ったが、ボブが頼りないので物語の推進力としてああいうキャラを出すくらいがちょうどいいようにも思えた。デル・トロの渋くてちょっと不思議な存在感もとてもいい。
ロックジョーには軍人としてのプライドと人間的な弱さが混在していて、一番興味深い造形の登場人物だった。差別によってプライドを保とうとした彼が黒人女性にレイプされ、ホロコーストの如く騙されてガスで殺され、死後のヒトラーのように燃やされるのは、何とも因果な運命だ。
PTA作品のストーリーラインについては正直その特別なよさがよくわからないのだが(ごめんなさい)、人物描写に着目すると結構楽しめる。
タイトルからもっとハイテンポな逃走劇やアクションを想起したが、全体的にイメージしていたほどのスピード感はなく(クライマックスのカーチェイスでは酔いそうになって、それはそれで面白かったが)、上映時間をもう少し削れたのではと感じた。どちらかというと社会風刺的ニュアンスを感じる描写の方が目立った。
ただ、本作がアメリカ国内で高評価を得ているのは何となくわかる気がする。PTA作品にしてはエンタメ寄りかつオフビートな展開に加え、不法移民のエピソード、娘の友人が家に来た時親子で交わされるプロナウン(代名詞)の確認、過激リベラルが狩られてゆく様、白人至上主義者たちの存在と彼らの価値観など、本国の観客にとってはまさに自国が現在抱える問題や日常のリアルを散りばめた寓話のように見えるのではないだろうか。
「クリスマスの冒険者」やロックジョーが悪役的立ち位置であること、ボブとペルフィディアの家族に対する価値観が男女逆転したような関係、ウィラが最終的に活動家になるところなどから基本的にはリベラルを指向する作品なのだろうが、それでいて過激派リベラルを美化せず、どこか突き放すように戯画化した描写があるのが面白かった。
活動の態様が一番まともに見えたのは、フレンチ75よりは穏健なやり方で移民を守っていたセンセイ。主人公のボブに対しても救世主的だった。このあたりの描写のバランス、そしてボブとウィラの絆に監督のメッセージが表れている、そんな気がする。
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