劇場公開日 2025年8月22日

「映画を観る前と後では、世界が違って見えた!」六つの顔 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 映画を観る前と後では、世界が違って見えた!

2025年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

何と言っても、人間国宝、野村万作さんの魅力に尽きる。

私たちが従来持っていた万作さんのイメージ、長男萬斎さんの子(万作さんの孫)3歳の裕基さんが「靱猿」でデビューを飾った時のドキュメンタリー(NHK)でみた、少し怖いくらいの偉大な祖父。
ところが、93歳の万作さんは、見事に老熟して、自由。ともかく、初夏の東京の道を、杖もなしに、かなりのスピードで、すたすた歩く。
映画の前半で、66年の、これを演じたら野村家では一人前と言われる狂言「釣狐」が出てくる。身体の動きの加速度(スピードの変化)がすごい。動的(ダイナミック)!
後半では(映画の中心)、文化勲章受賞記念公演での狂言「川上」の全編がカラーで出てくる。今度は、静的(スタティック)。歩く時の体の姿勢が、素晴らしい。
ダイナミックな動きには、手足にある速筋が重要、一方で、身体の姿勢・歩行には(インナーマッスルと言われる)体幹や体の後ろにある遅筋が重要。つまり、万作さんは、両方の筋肉を鍛えている訳。
こうした日ごろの鍛錬による肉体の上に、強靭な精神が宿っている。おそらく、戦争の時の経験が大きいと思われるが、そこから比類のないセリフが紡ぎだされてくる。見事!
どうぞ、お元気で!あの素晴らしい狂言を私たちに見せてください。
六つの(アニメの)お面や、映画の構成にも工夫があったことを付記する。六つの顔(能面)には、丸の内の美術館に展示されていた坂本繁二郎の作品の影響があるように思われた。

詠み人知らず