「見たかった「ベルトリッチの視点」」タンゴの後で La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
見たかった「ベルトリッチの視点」
1972年、ベルナルド・ベルトリッチ監督の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』は嘗てない大胆な性描写で世界を揺るがしました。主演女優を務めたマリア・シュナイダーは本作で名声を得たのですが、この映画では、脚本にない性暴力場面を彼女に前もって何ら知らせる事もなくぶっつけ本番で撮られた事を彼女は後になって告発しました。急な撮影変更を事前に知っていたのは監督と相手役のマーロン・ブランドだけだったのです。その出来事を中心に描いた物語です。
日本の映画界でも嘗ては、女優さんは「脱ぐ」ことで「女優魂」とか「熱演」「一皮むけた」などと称揚されました。僕も以前は確かにそう思っていました。ただそれは単なるスケベ心の裏返しに過ぎないんですけどね。でも、男性俳優がスッポンポンになったって「男優魂」「熱演」と言われる事は確かにありません。そこには明らかに映画界の性差別があったのです。性的な場面の撮影に当たってはインティマシー・コーディネーターが関わる様になって来た近年は、緩やかにではあるけれど確かに進歩したのでしょう。
ただ、当時のそうした歪んだ価値観を物語にするのならば、ベルトリッチ自身の視線を作中でもっと描くべきだったと思います。だまし討ちの様なその撮影を当時のそして後の彼はどう考えていたのかが映像化してあれば、表現活動が持ついかがわしさという一面と矛盾をもっと強く打ち出せたのではなかったでしょうか。
コメントする
