劇場公開日 2025年9月5日

「芸術という名の罪、男という名の罪びと」タンゴの後で sugar breadさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 芸術という名の罪、男という名の罪びと

2025年9月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「ラストタンゴ・イン・パリ」は1972年公開ですが、私が観たのは2000年のリバイバル。
映画的には、スキャンダラスな話題性の割に描写はそこまで過激ではなく、コメディ的な部分やガトー・バリビエリの素晴らしい音楽も相まって、お気に入りの作品でした。
しかし、制作過程でこのような事実があったのなら、もはや同じ感覚では観られないでしょう。

マリア・シュナイダーは薬物中毒とは聞いていましたが、アントニオー二の「さすらいの二人」やリヴェットの「メリー・ゴー・ラウンド」に主役級キャストで出演されていましたので、2011年に58歳でガンで亡くなられた時は驚きました。

芸術と性加害の問題に対し、今ようやく世の中の意識の変化が見られますが、当時は圧倒的な従属関係があったわけで、マリアは声を上げられず、世界的名声を得つつある気鋭の監督が望むんだからしょうがない、みたいな空気が周囲にもあったと思います。
薬物依存が社会的には問題があるとは言え、マリアの苦悩とその後の境遇には同情を禁じえません。

映画制作も人を相手にする以上、やはり人権尊重は大前提で、ベルトリッチのような才能溢れる人物なら尚更説明を尽くすべきでした。もしそれが出来ないということであれば、これはもはや「男であることの罪」と言うしかなく、昨今のキャンセルカルチャーも致し方ないと思います(純粋に映画好きには、お気に入りだった名作が観られなくなるは残念ですが)。

さて「タンゴの後で」ですが、マリア役のアナマリアの熱演もあり、監督の主張は伝わってきたのですが、映画的にはやや平板に感じてしまいました。ここはベルトリッチの芸術的な映画技法を逆手に取って駆使し、完膚なきまでにやり返すという方法もあったかもしれません。

sugar bread