「彼を支えていたのは、聴衆の歓呼!」ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
彼を支えていたのは、聴衆の歓呼!
ミシェル・ルグランの人生を追ったドキュメンタリー映画。わずか11歳で、パリ国立高等音楽院に入学したことで、音楽的な才能が窺い知れる。間違いなく、父親から受け継いだものだろう。クラシック音楽の徹底した教育を受け、20歳で卒業。最初はフランスの歌手たちの編曲・伴奏者として公演に携わるが、やがて本人の志向に添いジャズに身を染め、著名なアメリカのジャズ・ミュージシャンと共演を重ねるようになる。ついには推薦を受けて参加した映画音楽で決定的な評価を受ける。「シェルブールの雨傘」のすぐ後、「ロシュフォールの恋人たち」を作曲する前、ゴダールの「はなればなれに」(Bande à part)の中で、アンナ・カリーナも加わったカフェでのダンス・シーンが一番好きだ。「ロシュフォールの恋人たち」の後、ハリウッドに行き、「華麗なる賭け」で、最初のアカデミー賞に輝く。
彼が一番だいじにしていたことは何だろう。それは作曲に尽きる。寝室までピアノを持ち込み、映像を見ながら音合わせをしていた。ソルフェージュを基礎に、採譜、作曲、編曲ができ、オーケストラ譜まで書ける人は稀だ。ましてや彼はピアニスト、指揮者であり、後年は歌手まで手掛けていた。よほどの才能と努力があったのだろう。それだけに自負も人一倍あったのではないか。しかも、彼はクラシック音楽の出身でありながら、心の中には即興(improvisation)を旨とするジャズがある。彼こそは、クラシック音楽とジャズの間に橋をかけたのだ。彼が曲を書くときには、天上から何かが降りてきたという。彼はその何かを「思い」として人に伝えることができた。それに、監督や俳優も巻き込まれ、あれだけの映画ができたのだろう。
それでは、一番心に残る場面は?最後に出てきたクラシック音楽の殿堂、フィルハーモニー・ド・パリでの演奏会。彼は表情も虚で、ピアノや指揮も覚束ないように見えた。ところが演奏が終わって満員の聴衆を見たとき、彼の顔に輝きが戻った。ここで環は閉じられたのだ。
