「兄の愛する弟は、薬物中毒DVド屑男」ブロークン 復讐者の夜 エビフライヤーさんの映画レビュー(感想・評価)
兄の愛する弟は、薬物中毒DVド屑男
【おすすめポイント】
ハ・ジョンウがスーツを返り血で染めながら、鉄パイプと冷凍巨大魚でヤクザを殴り倒すシーンでご飯三杯食べられる人におすすめ。公式あらすじの「小説で予言された殺人」あたりに興味を引かれたひとは、見てもたぶん肩透かしをくらう。
【あらすじ】
主人公ミンテは刑務所を出所したばかりの元ヤクザ。日雇い労働で金を稼ぎ、現役下っ端ヤクザの弟ソクテに毎月仕送りをしてやっている。そんなある日、ミンテは弟がカラオケ店で惨殺されたと知る。事件と同時に姿を消した弟の妻ムニョンが怪しいと当たりをつけたミンテは、ムニョンの行方を追うなかで、事件とそっくりな内容の小説を過去に執筆したという作家ホリョンと出会う。ミンテとホリョン、ふたりの男はそれぞれムニョンの行方を追うが…?
【感想】
日本語タイトルは『復讐』ですが、これって弟を殺された兄の「復讐」がやっぱりメインなの?長年にわたって夫からDVを受けていた妻の「復讐」ではなく?だとしたら、まったく共感できないのですが…。あまりにも兄弟の所業が酷すぎて。
弟の妻ムニョンは、過去に何度も夫から逃げようと試みたが、その度に主人公ミンテに連れ戻されたと告白する。回想シーンで、ミンテは家の外まで響く激しい夫婦喧嘩を聞きながら「やれやれ」という顔をし、とりあえず仕送りの金とスイカを玄関に置いてその場を立ち去る。そこで行われている暴力を、見てみぬ振りをしたのだ。いやいや、弟の家庭内暴力を止めろ…!薬物への依存もやめさせろ…!妻へ暴力を振るう弟も最低だが、それに荷担する兄もまた最低だ。
そんなこんなで。主人公は姿を消したムニョンを執拗に追い、彼女を匿う人々を過剰な暴力で脅し、「もし弟を殺したのがムニョンなら、俺が殺してやる」的なことを息巻いて言うのだが、まっっったく感情移入できない。どちらかというと、主人公から逃げるムニョンとその幼い娘を応援したくなる。こんなクソみたいなヤクザ兄弟から逃げたほうが絶対幸せになれるよ…。
そして最後の最後に、弟を殺したのはムニョンではないと判明する。ムニョンは夫が殺されるとわかっていながら、それを止めずにただ見ていたのだ。事件が起きたカラオケ店のカウンターで、恐怖しながら、怯えながら、期待しながら、目を見開いて、夫が殺されるのをじっと待っていた。このシーンを見たとき、わたしは「これこそ復讐じゃん」と思った。見てみぬ振りをする。これもまた、最大の暴力たりえるのだと。
謎はすべて解き明かされず、物語は中途半端に終わる。続編があってもたぶん見ないと思う。
