大統領暗殺裁判 16日間の真実のレビュー・感想・評価
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79年という時代の空気を濃密に焼き付けた一作
実話ベースのこの政治サスペンスを面白く観た。裁判と聞くとやや硬いイメージが伴うが、本作は決して膨大なセリフ量の密室劇の域には収まらず、被告の一人である軍人とその弁護人という特殊な立場と関係性を巧く生かしながら、韓国における1979年という極めて重要な時期の空気感を浮き彫りにする。本作ひとつで当時起こったあらゆる経緯を呑み込むのは困難だが、『KCIA 南山の部長』や『ソウルの春』と併せて味わうことで、点と線の理解はより深まるはず。いや、理解などという冷静なものではなく、観ながらまずこみ上げてくるのは、一人の男によって自由の灯火が吹き消されることへのやりきれない怒りだ。前述の2作に比べると規模は小さく、語り口もやや実直に思えるが、その分、物語の情熱と躍動感を担うジュンソク、揺るがぬ信念を秘めたソンギュン、すべての背後で不気味にうごめくジェミンという3者各々の存在感が強く見応えを残す一作である。
キャストは地味めながら熱演が見応えあり。韓国現代史のパズルのピースがまた1つはまった感覚
本作については当サイトの新作評論枠に寄稿したので、ここでは補足的な事柄をいくつか書いてみたい。
評論では、「KCIA 南山の部長たち」と「ソウルの春」の橋渡しをするのが、「大統領暗殺裁判 16日間の真実」の内容だと書いた。「KCIA~」が1979年10月26日に朴正煕大統領が中央情報部部長キム・ジェギュに暗殺された事件を、そして「ソウルの春」が同年12月12日に当時国軍保安司令官の全斗煥が起こした粛軍クーデターを扱っている。政治家や軍人らの権力闘争と自由化を求める民衆運動などが複雑に入り組んだ韓国現代史をジグソーパズルにたとえるなら、先述の2作を鑑賞してからこの「大統領暗殺裁判」を観ると、パズルに欠けていたピースがぴたりとはまる感覚を味わっていただけるのではないか。
キャスト的にはやや地味かもしれない。「KCIA~」がイ・ビョンホン、「ソウルの春」がファン・ジョンミンといった具合に日本でも知られる大スターが出演していたし、同じ実話ベースの法廷物でも「弁護人」(2013年製作)はソン・ガンホが主演だった。それでも、被告の軍人パク・テジュを演じたイ・ソンギュンと、若手弁護士チョン・インフ役のチョ・ジョンソクの熱演は見応え十分。軍人としての矜持を貫くパク・テジュと、嘘の証言をさせてでも裁判に勝ちたい現実主義者のチョン・インフというまるで水と油のような2人が、互いの生き方や信念に影響を受けて少しずつ変化し、心の距離が近くなっていく展開もいい。
「ソウルの春」のレビューでは、「作り手側の激動の四半世紀をとらえ直して若い世代にも伝えていこうという思いから力作が生まれ、そうした思いが観客に共有されて大ヒットにつながり、興行的成功がまた新たな社会派映画の製作を後押しする好循環が続いているのだろうか」と書いた。この「大統領暗殺裁判」もそうだが、韓国現代史を扱う社会派映画が日本に届くたび、邦画業界はずいぶん遅れをとっていると痛感する。同様に70年代以降を振り返ると、政治であれば田中角栄、小泉純一郎、安倍晋三ら個性が際立った元首相たちや、38年ぶりに自民党政権からの政権交代につながった新党ブーム。国民的な関心事ならオイルショック、ロッキード事件、リクルート事件、オウム真理教事件など。これらを真正面から描く劇映画がコンスタントに作られるようになればと切望するが、当分ははかない夢だろうか。
名優再哀悼
「南山の部長たち」と「ソウルの春」のあいだを描く。軍人は結局、命じられれば人を殺すという真実。
表題にあげたのはパク・チョンヒ大統領暗殺とチョン・ドゥファンの粛軍クーデターをそれぞれ取り上げた作品である。今回改めて認識したのがこの2つの事件は1979年10月26日と12月12日に起こっており、その間46日しか空いていないこと。短い時間で権力を掌握したチョン・ドゥファンの行動の果敢さと運の強さが感じられる。その人となりだが「ソウルの春」のファン・ジョンミンはやや軽味すら感じさせる演技だったのと比べ本作のユ・ジェミョンは冷酷さが強調されていた。なかなかに複雑な人物だったのだろう。ちなみに本作も「ソウルの春」と同様にチョン・ドゥファンは仮名の扱いとなっている。パク・チョンヒと同じくそろそろ実名でいいじゃないかと思うけど。
さて本作では冒頭に暗殺が、最後にクーデターが取り上げられ、この2つをつなぐ空隙に行われた裁判を描く。主犯はもちろんKCIA部長のキム・ジェギュだが映画では彼の秘書室長をしていたパク・テジュ大佐に焦点を当てる。この人も仮名で実際はパク・フンジュという人なのだが、映画の中でも触れられている通り、キム部長と違ってあまり有名な人物ではない。監督もどこかのインタビューで言っていたが情報の掘り起こしには苦労したらしい。パク大佐の弁護士の奮闘が映画の主題なのだがここはほとんどがフィクションだろう。少し話を盛りすぎている感じはあるし、軍事法廷なので結果もみえてしまっている。
心に残るのは、弁護士とチョン・ドゥファンの対決の部分で「金をぜんぶ取っても権力をすべて取っても命だけは取るな」と弁護士が叫ぶところ。まさにここが翌年の光州事件に繋がっていくところでチョン・トゥファンの支配する軍は、一般市民に銃口を向けて多くを殺した。軍人というものは命令さえあれば同じ国民であっても女子供であっても容赦なく殺す。その命令を下すものが権力欲に取りつかれたゴロツキだったらどうなるか。だから軍隊に権力を持たせることは絶対に避けなくてはならない。この映画は結局、そういうところに帰着するのだと思う。まともな韓国人の心情でしょう。非常戒厳がコケるわけだよね。
幸せの国は何処にあるのか?
韓国ドラマで一番私の心を震わせた作品は「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」だ。この映画はそのドラマで主演をしたイ・ソンギュンの遺作である。と、言うこともあり、ラストシーンでは遂に涙が溢れてきてしまった、、。
映画のストーリーは1979年の朴正煕大統領暗殺、暗殺者の裁判、軍事クーデターと、史実の通りの流れ。チョ・ジョンソク演じる主人公の弁護士は映画独自のキャラクターだが、パク大佐、KCIA金部長、保安司令官の全斗煥(その後大統領となる)も実在の人物である。1979年の短いソウルの春、そして軍事政権、光州事件と韓国の人々が切ない思いをしていた時代。その苦境の始まりがこの裁判にあったのだと思います。
パク大佐は軍の中でも出世頭で将軍昇進も確実されるほどであったが、生活は慎ましく庶民街に暮らしていた。妻や子供たちの存在と「お父さんを助けてください」と懇願する横断幕も事実だった。しかし全ての権力を手中におさめたい全斗煥は、裁判そのものを陰で操り(映画では裁判を盗聴しメモで裁判官に指示)この暗殺事件を内乱として断罪し、関係者全員の死刑を早期に決めた。そして、唯一の軍人であったパク大佐は誰よりも早く1980年3月に銃殺刑に処せられてしまったとのことである。
そのパク大佐を演じたイ・ソンギュンは2023年の暮れに自死した。警察の公開召喚やらマスコミ等色々あったようだが自死の理由を含め本当のことは本人しかわからない。
本作の原題は「LAND of HAPPINESS 」。どうぞ、安らかに、。お祈りいたします。
人の想いがしっかりと描かれている秀作
歴史的事実をベースに、隠された裏側はフィクションも混ぜつつ、結果は事実に基づいて描かれている、そのドラマの組み立て方が骨太で、人の想いがしっかり描かれていて、心を動かされたシーンがあった。その国の現実が文化や表現方法に影響を与えるのは間違いなく、若干極端なアクションに出てしまうのはその国ならではの描き方。現在の民主的な尺度では納得のいかないシステムの中で、理不尽であっても正義を求めて戦おうとする苦しみは国の違い関係なく、将来報われる社会になって欲しいと願ってしまった。
また過去の歴史を振り返り、虐げられた人達がいた事を記録したい、同じ悲劇を繰り返さないためにという想いを受け取ったように思う。
見応えがあって、最後まで目が離せなかった。ラストは知ってたけど、「...
韓国の負の歴史
韓国ってほんと嫌な国だな
2025年劇場鑑賞226本目。
エンドロール後映像無し。
最初に史実を基にしたフィクションですと出るのでだいぶ萎えたのですが、結構史実通りみたいですね。
だとしたらめちゃくちゃな国だよ相変わらず。大統領を暗殺するために周りごと撃ち殺しちゃうならもうそこに正義なんてないし、そんな人殺し達をかばうために弁護団が立ち上げられたのもよく分かりませんでしたし、明らかに殺してるのに無罪を主張(後で上に命令されただけという主張なのは分かりましたがその主張がなかなか出てこなかった)するとかどういう神経してるんだとか、法律を一番守らなきゃいけない弁護士たちがお店で喧嘩して物を壊しまくるのおかしいだろとか、嫌な所ばかり目についてしまいました。
軍事裁判って今もあるんだろうか? イソンギュンの死後に映画を見た時...
軍事裁判って今もあるんだろうか?
イソンギュンの死後に映画を見た時、
『あれ?まだ出てるの?』って何回か思ったけど、
これが本当に最後の作品みたいなので、
私の中でイソンギュンは、
この登場人物として処刑されたことにしておきます
8/26 追記
エンディングの曲が良かった
絶対違うってわかってるんだけど、
最初の方はレナードコーエンかと思わせ、
途中から竹原ピストルかと思った
本能寺の変との類似、
主君信長を殺害した明智、しかし戦後処理をした秀吉が天下人になった。
朴大統領を殺し 実行犯は死刑になり、全斗煥が 天下人。
全は 韓国歴史の中では 悪、黒歴史になっている。
自分は 疑い深いので、 本当は 悪者設定にされただけでは?
と 疑う。
全斗煥のパワーが凄かった時代の話
愚直は不利なのか?
史実だから…
安っぽいメロドラマ
現代日本にはない"軍事裁判"とは?
歴史的事件としても、そして軍事裁判の在り方としても、興味が有ったので、本作を鑑賞しましたが、
封切日でしたが、深夜0時終了という時間帯であった為か、他に鑑賞者はなく おひとりさま観賞会でした。
K国では、徴兵制が1949年8月に制定され、翌年から「19歳の徴兵検査」そして"徴兵"が始まり
そのすぐ後である1950年6月25日から、1953年7月27日まで朝鮮戦争が起こるので、
事件が起きた本作の舞台である1979年の時点で
本作 主人公チョン・インフが、徴兵に行ったのか、行かなかったのかで、
本作中での数々の会話や各種関係性や背景が違ってくるのですが、
主人公が50歳以下であるならば、徴兵制に行っていた事に成りますが、
本作は「若手弁護士」と言う設定に成っており、子供も10歳程度なので。。。
史実も映画においても、朝鮮戦争に参戦したかは解かりませんが、徴兵には行っていた可能性はあります。
その場合、"職業軍人"を良く思っていない事は、徴兵訓練時での恨みなのでしょうか?
ゴルフ練習場での 迫真の演技は、非常に素晴らしかった! <主演賞>
この映画を観たら「あの頃はよかった」と言うセリフが忘れられない「ソウルの春(2024年)」をまた観たいと思いました。
歴史の闇に光を求めた16日間
■ 作品情報
監督:チュ・チャンミン。脚本:チュ・チャンミン。主要キャスト:チョ・ジョンソク、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン。
■ ストーリー
1979年10月26日、パク・チョンヒ大統領暗殺事件が発生する。この歴史的事件に巻き込まれた中央情報部長の随行秘書官パク・テジュ大佐(イ・ソンギュン)は、上官の指示に従っただけにもかかわらず、その裁判を軍法会議で受けることとなる。彼の弁護を引き受けたのは、勝訴のためなら手段を選ばない弁護士チョン・インフ(チョ・ジョンソク)だった。しかし、裁判の裏では、巨大な権力を持つ合同捜査団長チョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)が、自身の野望のために軍事クーデターを画策し、裁判までも不正に操っていた。チョン・インフは、公正な裁判を求める中で、しだいに国家の腐敗と隠された真実に直面し、巨大な権力に立ち向かうことになる。
■ 感想
まず感じたのは、韓国の複雑な歴史や政治情勢に対する、自分の知識の不足です。序盤は、登場人物たちの相関関係や政治的な背景が掴みきれず、会話劇の難解さに正直、何度か意識が遠のきそうになりました。
しかし、中盤に差しかかる頃から、点と点が線で繋がり始め、物語の深層が見えてくると、そのおもしろさに引き込まれていきます。特に、弁護士チョン・インフの変貌ぶりには目を奪われます。当初はただの勝訴至上主義者に見えた彼が、真実と正義のために奔走する姿は、観る者の心に熱いものを感じさせます。また、暗殺事件に巻き込まれた軍人パク・テジュの、高潔で愚直なまでの姿勢には深く心を打たれます。
対照的に、全斗煥をモデルにしたチョン・サンドゥの圧倒的な権力欲と、その憎々しいまでの描写には、韓国社会の根深い腐敗をまざまざと見せつけられます。あの時代の韓国国民がどれほどの理不尽と絶望を感じていたのか、現在の韓国国民は本作を観てどのような思いをもつのか、ちょっと気になります。映画全体を通して感じた、国家権力の不条理と、それに抗おうとする人々の姿は、重苦しいながらも非常に示唆に富んでいます。
最終的にはなかなかおもしろく感じ、「12.12軍事反乱」を描いた作品「ソウルの春」改めて観てみたくなりました。複雑な時代背景を知る上で、非常によいきっかけを与えてくれる作品です。
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