「冒頭のトマス・モアの言葉が誰の心情を表しているのかを見ていくと面白みが増すかもしれません」BAD GENIUS バッド・ジーニアス Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭のトマス・モアの言葉が誰の心情を表しているのかを見ていくと面白みが増すかもしれません
2025.7.23 字幕 T・JOY京都
2024年のアメリカ映画(97分、PG12)
2017年のタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のリメイク映画
中国系移民の高校生が富裕層と結託してSAT(大学進学適性試験)にてカンニングを行う様子を描いたスリラー映画
監督はJ・C・リー
脚本はJ・C・リー&ジュリアス・オナー
物語の舞台は、2016年のアメリカ・シアトル
名門校エクストン校への編入のために校長ウォルシュ(サラ=ジェーン・レイモンド)の元を訪れたメイ・リン・カン(カリーナ・チャン、幼少期:オリヴィア・ナグート)と父メン(ベネディクト・ウォン)は、面接でもその秀才ぶりを発揮し、見事に学費免除を勝ち取った
父はコインランドリー経営をしていたがあまり実入りは良くなく、リンの交通費のためにウーバーを始めなければならないほどだった
その後、リンにウォルシュ先生直々の命令を受けたグレース(テイラー・ヒクソン)が案内役に就くことになり、彼女の彼氏パット(サミュエル・ブラウン)とも交流を深めていく
そして、定期試験に臨むことになった彼らだったが、劣等生のグレースは全く問題を解くことができず、リンは彼女に救いの手を差し伸べてしまう
それを知ったパットは、期末試験に向けてのカンニングプロジェクトが立ち上げ、リンは試験の答えを音楽のコードに準えることで他の生徒たちに伝達する方法を編み出す
それに乗った生徒たちがたくさん集まり、1教科200ドルが展開する
だが、クラスの異変を感じていたバンク(ジャバリ・バンクス)は、ウォルシュ校長に不正が行われているのではないかと告発するのである
映画は、タイ映画のリメイクで、内容はほぼ同じとなっていた
グレースへの初動、ピアノを弾くふりをするカンニング、そして最終試験にて「トイレにスマホを隠す」というところもほぼ同じだったと思う
この映画の予告編を観て、既視感あるなあと思っていて、その決定機だったのがバンクがトイレシンクのフタを落としてしまうシーンで、「あ、これ観たことあるやつや」と思い出していた
それでも、かなり記憶が薄れていたのと、予習をしなかったおかげで、スリル満点の映画を堪能することができた
映画では、冒頭にトマス・モアの言葉「If honor were profitable, everybody would honorable.」という結構有名な言葉が引用されていた
本作では「高潔で利を得るなら、皆高潔になるだろう」という翻訳だったが、一般的には「名誉」というニュアンスの方が有名かもしれない
この言葉は、リンの父の言葉「正しいと思うことをしなさい」が源泉となっていて、不正のせいで巻き込まれた受験生たちにどう報いるかという命題の中で生まれている
リンはパットの父テッド(デヴィッド・ジェームズ・ルイス)に直談判し、自首をしない代わりの条件を提示する
それらは再試験の生徒たちへの支援と、巻き込んでしまったクラスメイト・バンク(ジャバリ・バンクス)への償いだったが、彼女は何も望まなかった
このシーンはいわゆる「取引」というもので、テッドに対してそこまで無茶なものではなかった
元々ニューヨークに買う予定だったタワマンよりも安く、救済の基金を設置するのだがら総額をテッドが負担することもない
そうして出来上がる真のWin-Winがあり、これがテッドの心を動かしていた
映画では、SATと呼ばれるアメリカの大学進学適性試験が描かれていて、そこで不正を行う様子が描かれていく(リメイク元はタイのSTIC試験という架空の試験になっている)
別の試験会場で受験し、その時差を利用して、フィラデルフィアからシアトルに解答を送るというもので、そのために150近くの設問を解きながら覚えなくてはいけない
そこでバンクを巻き込むことになるのだが、そこにはリンも知らないパットたちの思惑というものが隠されていた
裏切られ、奨学金もフイにしてしまったバンクだったが、乗りかけた船から降りることはできず、その作戦に加担することとなったのである
リメイク元にも格差社会が根底にあって、単に見せかけの学歴が欲しい富裕層と実利が欲しい貧乏な天才が手を組むのだが、強欲さに関しては富裕層が一枚も二枚も上のように思える
グレースは大学を1年間遅らせて旅に出ると言い出すものの、一刻も早くジュリアードに行きたいリンはその余裕がない
彼らには無尽蔵に使える金と時間があるものの、リンはそれに染まっている時間はなかった
富裕層は目的のために人を道具のように使うのだが、パットたちは自分で金を稼いだことがないので、その感覚がさらに歪んでいる
そのために「話ができるテッド」を相手にすることになるのだが、この選択をすることがリンが唯一無二の天才である所以であろう
起こっている物事の根幹を理解し、その構図を壊さないまま最大の利益を得るにはどうするのか
これが「現代のアメリカにおける正しさ」であると考えるものの、彼女自身はそこに身を委ねない潔さがある
これが冒頭のトマス・モアの言葉に繋がっていると言えるのだろう
いずれにせよ、犯罪映画なので真似をしてはいけないのだが、できる人間もほぼいないと思う
だが、リメイク元の原作は「実際の事件に基づいている」ので、この内容を実行した人がどこかにはいたことになる
方法は違えども、組織的なカンニング計画を立てて実行したというものがあるので、頭の使い所を間違える人はどこにでもいると言えるのだろう
それでも、マークカード方式の試験だからできた作戦で、記述式に変わればやりようがない
なので、暗記型や選択型の「採点の簡易さ」から脱却したときに始めて、このような試験において真の実力が測られるのかな、と感じた
