「ピカレスクと青春物語の狭間で……」BAD GENIUS バッド・ジーニアス よしてさんの映画レビュー(感想・評価)
ピカレスクと青春物語の狭間で……
オリジナル版は未見です。
金銭的に恵まれない才女リンが名門校で富裕層のカンニングを手伝う話、と書くと身も蓋もないですが事実で予告からもそれはわかります。
リンが親友から認められるために悪事に手を染め、その価値を知り、矛盾のある教育システムへの反抗として、大掛かりなカンニング作戦を企てる。この映画の弱いところは、その信念を貫徹する強さがやや希薄なこと。リンはもともと優秀で希望する進学先にも順調にアプローチしてるため、教育システムへの反抗という大義がなく、逆にいえば富裕層にうまく利用されてるだけ。
リンは才女とはいえ、まだ10代。間違ったこともするし、悩むこともあるでしょうが、悪いことをする、というモチベーションが金銭的なものや「友情」を維持するためだけであるので、その帰結があまり気持ちのいいものになっていません。
似たような境遇であくまで生真面目なバンクの存在で、さらにリンの優柔不断さが目立ちます。
逆の視点でいえば、劇中のセリフにもあるように「いつも辛い思いをするのは貧困層」である現状を描くには、リンはノリノリで悪事に手を染めすぎなのです。
終盤その構図に気づき、ラストも万事うまく解決し、リンは悪事の精算をしているように見えますが、贖罪までしてるようには見えず、稼いだお金がどうなったのか不明なため、ちゃっかりおいしいところを持っていったようにも見えるのです。
解釈の余地が広い、とか、社会の複雑さをしっかり描いている、といえばプラスの評価もすることは可能です。とはいえ、リンというキャラクターがどっちつかずになっていたのは事実で、心に引っかかるところも多い作品でした。
