「女子教育に尽力した島田依史子の自叙伝が原案…」富士山と、コーヒーと、しあわせの数式 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
女子教育に尽力した島田依史子の自叙伝が原案…
…にしては、関連性の薄い題材をあれこれ盛り込みすぎて散漫になった感が否めない。
学校法人文京学院の創立者である島田依史子(1983年死去)のことを今回初めて知ったが、明治35年生まれ、結婚・出産ののち22歳で島田裁縫伝習所(今の専門学校のようなものだろうか)を開いたというから、相当にパワフルな女性であったようだ。文京学院100周年記念の2024年に出版された『信用はデパートで売っていない ‐教え子とともに歩んだ女性の物語‐』が原案とされている。
本の紹介には、「現在の文京学院の創立者・島田依史子が、独力で女子教育の場を切り拓いた、希代の女性教育者の意志と覚悟を著した自叙伝」と記されていて、これをもとに現代が舞台の劇映画を作るなら、女性の教育や、女性が学んで知識や技能を身につけ就職したり起業したりといった話がメインになりそうだが、そこに注力した感じでもない。
コーヒーを淹れるのが大好きな大学生・拓磨(豆原一成)がやがてカフェを開く夢を持つ。その祖母・文子(市毛良枝)は、富士山が大好きだった夫・偉志(長塚京三)が生前に申し込んだ生涯学習カレッジに通うことに。拓磨の母・綾(酒井美紀)は海外長期出張もこなすキャリアウーマンでシングルマザーだが、文子との間に確執がある。拓磨の恋人でよき理解者の紗季(八木莉可子)は、希望する会社のインターンで忙しくなる。
高齢者が生涯学習を通じて世界を広げたり、女性が仕事と家庭の両立で苦労したり、専業主婦の母と働く娘の間で確執があったり、インターンの女子大生が職場で忙しくなって恋人に会えなかったりと、一応女性の学習や仕事にからむ題材を扱ってはいるが、どれも表層的な描写にとどまり、深掘りされない。
一方で文子の丁寧な暮らしぶりに偉志がいつも感謝していたことも描かれ、それはそれでほっこりするいいエピソードではあるけれど、女性の社会進出とはベクトルが別方向であり、これも散漫な印象の一因。
起業を夢見るキャラクターが女性なら、まだ原案との整合性があった気がするが、JO1の豆原一成の主演ありきの企画だったかもしれない。主題歌もJO1で、DXTEENの福田歩汰も出演しているが、JO1とDXTEENはともにLAPONEエンタテインメントに所属。キャスティングと脚本開発に大人の事情が影響した可能性もありそうだ。
本編100分にいろいろなエピソードがふわっと軽く散りばめられているので、あまり深く考えずに鑑賞するほうが幸せになれるかも。
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