劇場公開日 2025年10月25日

「「雨ふらなかったね。神様って女の人なんだね・・」と集会の帰途、車の中で得心したように男の子が言ってた。」女性の休日 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 「雨ふらなかったね。神様って女の人なんだね・・」と集会の帰途、車の中で得心したように男の子が言ってた。

2025年11月16日
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鑑賞方法:映画館

アイスランドは北の海の孤島です。
氷と溶岩が、つまり「地熱」と「氷雪」の”矛盾“が同居している不思議の島。電力の殆どは地熱の発電から取っている火山島なのです。
なにか象徴的ではありませんか。

このドキュメンタリーは、あれよあれよと実現してしまった「女性の休日」というスーパー・イベントの顛末でした。

短い尺です。テンポは抜群ですし、何が起こったのか、そこ説明調にならないようにと北欧系の素晴らしいアニメーションが物語をぐいぐい引っ張ります。
そして何よりも登場する女たちの表情が素敵なんですよ。
「あんなふうになりたい」と僕は思いましたね。

今夜の塩尻市・東座。
女性だけを贔屓ひいきして、入場料は大幅値下げの東座とかズルくないですかァ?(笑)。
入り口でピンクの包みのチョコレートが配られていました。
野郎には無しかよ?と思ったら僕にもご褒美にチョコレートをくれました。

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上映前に、そしてエンディングで薄暗い館内に流れるのはビョークです。

アイスランドという北海の島国は、僕の大好きなピアニストで指揮者=亡命ロシア人のウラディミール・アシュケナージの住む国。(先年、辻井伸行とのラフマニノフで日本でのコンサートを成功させてくれたお方です)。
そしてご存じ、唯一無二の震える声。前衛ロックシンガー、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のセルマ役をつとめた歌手ビョーク(ビョルク)の地元です。

島国アイスランドは、ヨーロッパ大陸からはずいぶんと離れていて、不便な地の利。ノルウェーとグリーンランドの中間に浮かぶ島で、人口はわずかに40万人。
にも関わらずそのアシュケナージや、あのビョークが居住地として選んだ魔法の島として、僕の注目の島だったのです。

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「女性の休日」プロジェクトの、当日までの苦労はずいぶんと明かされています。
・「ストライキ」の語にはどうしても乗れない右派グループもいれば
・「私たち女性は家庭内におらせてもらって守られているのに」と男社会を非難するスローガンに反対する女たち。そして
・「なんかこのムーブメントは自分のやってきた家事を否定されている気がする」と悲しんだ女達の声もちゃんと汲み取られて紹介される。

このあたりの「落とし所」を探る委員会の様子がとても丁寧で、親近感を憶えます。大変だったはずです。
― 僕も小さな学校で学生会長として、檄文の文面や採決方法で頭を悩ませた経験があったから。

でも結局あの大集会の場を制したのは政治活動家たちの扇動ではなく「女たちみんなが、毎日台所のテーブルでタバコを吹かしながら駄弁っていた」そのまんまの言葉だったのでした。
《男たちの事は嫌いじゃないけど自分たち女も平等に扱われたいんだよね》という当たり前の本心。

小さな島と思っていたけれど、島の反対側、500キロ離れた街でも連帯の集いは開かれ、船の上からも電報が届き、世界中の女たちが固唾を飲んで見守った「女性の休日」でした。

飛行機も止まり、電話局も止まり、店も、銀行も、新聞社も、劇場も閉まり、男たちは泡を喰らって職場にチビ達を迎え入れた。
やってやれない事はない。
正しい主張は明るい笑いを生むのです。

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【スペインの「何もしない」女性の彫刻】でYouTube検索を。

それはスペイン、トレホン・アルデスにあるフアンホ・ノベラJuanjo Novellaの彫刻「荷を負う女性」の紹介です。この映画の前準備で見つけた画像動画です。

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映画館東座の、館主合木こずえさんは、配られた自作のパンフレットで、ひとつの事、書き落としませんでしたよ、ちゃんと釘を刺してます ―
「彼女たちの発言と行動に触発され、精神的な自立を確立すれば、日本はもっと住みやすくなると思います」
「新しい女性総理(高市早苗さん)に平等とクリーンな政治を期待して」、と閉じている。

洋上の漁船から打たれた連帯の電文には、胸が熱くなります。「ドアを開けなさい」と激しく扉を叩く船長や甲板員。震えて耐えた女。
てもドアを開けなきゃいけなかったのは男たちのほうでしたね。

館主からもドアをノックされて「きみはどう思うの?」と問われている感じです。

90歳の母に、どうやってこの映画を見せようかと思案中です。

きりん