「ロック伝説にリアルな手触りを与えてくれる」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
ロック伝説にリアルな手触りを与えてくれる
スコット・クーパー監督ということで極めてオーソドックスな見せ方の人間ドラマになっていて、決してエッジな映画ではない。地味渋アルバム『ネブラスカ』制作の裏話ということでロックスターの伝記映画という雰囲気も薄いのだが、映画を観るまでぜんぜん似てないじゃないかと思っていたジェレミー・アレン・ホワイトが、冒頭で「明日なき暴走」を歌うライブシーンでスプリングスティーン独特のエネルギー過多なパフォーマンスをみごとに表現していて、このライドに安心して乗っていいという保証を得た気がした。
束の間の恋人になる相手は、スプリングスティーンが関わった複数の女性を参考にして生み出されたオリジナルキャラだというが、当時のスプリングスティーンの未熟さを際立たせるいい存在になっていて、とても映画的というか物語的というか、よくある都合のいいマジカルワーキングクラスガールになりそうなところを、便利な救済を与えてくれるわけでもないし、なんならひどい捨てられ方をしていて、その辺の容赦なさもいい。
あと自分も信じていたし、この映画についても未だに書かれがちな「ベッドルームで一人で宅録したアルバム」という伝説が、ちゃんとレコーディング係としてギターテックを呼んでいたり、ティアックの4トラックカセットテープレコーダーがまだ発売されたばかりでバカでかかったり、あのディープなエコーはトラックダウンのときに強引にエコープレックスを噛ましていたことがわかったり、積み重ねたディテールのおかげで伝説にリアルな手触りが宿ったことも薄めのファンとしてありがたかったです。
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