「愛おしい程のスプリングスティーンの苦悩」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ Takさんの映画レビュー(感想・評価)
愛おしい程のスプリングスティーンの苦悩
邦題に「ハイウェイ」がついているものの、「Born To Run」が「明日なき暴走」とタイトルされるくらいだから、なんとなくそのイメージだと思われる。が、映画の内容に疾走感は無い。寧ろ停滞感やトラウマ、鬱状態に陥ったスターの等身大の姿が描かれている。
話は1980年に発売され全米1位を獲得した2枚組アルバム『The River』のツアーの終わりから始まり、大成功を納めたツアー後、周囲からの次のアルバムへの期待が高まる中、自分に向き合い次作アルバム『NEBRASKA』を発売するまでの悩める姿を描いた映画になる。
これまでも実在するミュージション扱った映画を観てきたが、どれも伝記的な描かれ方で(来年はマイケル・ジャクソンの映画が公開されるが)ある時期に絞った描かれ方は異色と言える。
当時(1981-1982)はシンセサイザーを使った曲が急速に音楽シーンに広幅を利かせ始めた頃で、音楽業界が大きく変わっていく時期にあたる。MTVが開局したのもこの頃だ(1981)。
そんな中、自宅でアコースティックとハーモニカでの弾き語りを主体にしたデモテープをそのままアルバムにしたスタイルは当時の硬直した業界に一石を投じたとされた形だった。
アルバムを発売し、ツアーに出ることも無かった。
アルバムは、椅子の軋む音もそのまま収められているような剥き出しの音で、社会で騒がれた事件をモチーフにした歌もあり、全体的に内向的で暗い。
が、この時期、これがスプリングスティーン自身の内面的なバランスを保つ上で必要だった。
『The River』の後に『NEBRASKA』、その後も『Born in the U.S.A.』の大ヒットの後にやはり宅録を中心にした『TUNNEL OF LOVE』のように「動」の後に「静」のアルバムを繰り返している。
(『Born in the U.S.A.』の収録の幾つかの作品は『NEBRASKA』と同時期に作られていた事は未収録曲を集めた『TRACKS』で判明しているものの、この映画を観ればよくわかる)
その後は家庭を持ったことで安定したのかこの様な明暗くっきり分かれたアルバムリリースはないように思える。
それ以前も出世作『Born To Run』の後にマネージャー(マイク・アペル)と契約問題の裁判沙汰に巻き込まれ、勢いに乗りたい時期に2年間音楽活動停止を余儀なくされ、苦りきった時期がある。その後にやっと出せたアルバム『Darkness
on the edge of town』もロックだったけど暗かった。
こうした背景があり、その後にマネージャーとなったジョン・ランドーはスプリングスティーンが信頼する人物となり現在も彼を支えている。
今回の映画ではジョン・ランドーが良き理解者となり、『NEBRASKA』発売に大きく貢献していた事がよくわかる。
まだ『Born To Run』(1975)が発売される前、当時音楽評論家だったジョン・ランドーが1974年、スプリングスティーンのライブを観て、ボストンの地方新聞に「私はロックンロールの未来をみた。その名はブルース・スプリングスティーン」というコラムを残したのは有名な話になる。
そうした背景を知っている人は充分に楽しめる映画だと思う。
あと、彼のバックバンド(Eストリートバンド)のメンバーがそっくりでクスリと笑ってしまった。
試写会を観た人のコメントでは、「スプリングスティーンを知らない人にもオススメ」と目にしたが、↑で書いた事前知識を知っていると理解しやすいと思う。
知っているファンの人であれば、勿論楽しめるというか、当時の彼の苦悩を知り理解が深まる映画だと思う。
地元ニュージャージーのアズベリーパーク、フリーホールドの景色や地元のライブハウスで本人が今でも飛び入りで参加するという「ストーンポニー」が出てきて忠実に描かれた映画であることがわかった。
わざわざオススメはしませんが、興味のある方への予備知識として。
「なんだコアなファン向けのマニアックな映画か」と思った方は『カセットテープ・ダイアリーズ』をオススメします。80年代のイギリスを舞台に、パキスタンから移民してきた少年がスプリングスティーンの曲を聴いて影響を受けるという実話を基にした青春映画ですが、スプリングスティーンの曲がふんだんに使われ、ファンでなくても普通に楽しめる映画としてお勧めします。
トミー様 佐野元春の「ロックンロールナイト」のPVなんかを観ると、ライブパフォーマンスを観ると影響されてたのはよくわかりますね。またアルバムでは3分程の「悲しきラジオ」がライブでは9分程の演奏になるパフォーマンスも影響を受けているように思えますね。
ゆーきち様 そうですね。ドラムのマックス・ワインバーグの真っ直ぐな背筋、スティーブン・ヴァン・ザントの当時の帽子の被り方やギャリー・タレントの佇まい陽そっくりで、当時のスプリングスティーンのギターを上に掲げてオーディエンスを煽る姿等、よく研究してるなと思いました😆
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