キス・ザ・フューチャーのレビュー・感想・評価
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芸術やカルチャーがもたらす力に圧倒される
約30年前のボスニア紛争、とりわけセルビア人勢力がサラエボを包囲し、市民に砲撃や銃撃を浴びせた数年間に焦点を当てたドキュメンタリーである。しかしこれは紛争の記録にとどまらない。実はその戦下では市民が夜な夜な地下会場でディスコやライブを開催し、極めて特殊な音楽ムーブメントが生まれていたと言うのだ。そこに決定打を与えたのが、U2とサラエボ市民との交流である。この知られざる一連の歴史の裏側は、展開を見守るだけでもドキドキするし、人間の絆や音楽が持つ可能性についても大いに考えさせられる。当時を述懐する多様な顔ぶれも素晴らしく、決してU2の存在をメインに据えるのではなく、あくまで主役はサラエボ市民であり、音楽の力そのもの、という照準の当て方も練り抜かれている。あれから30年。相変わらず世界から悲しみはなくならない。が、希望を捨ててはいけない。本作には現代に向けた力強く崇高なメッセージが詰まっている。
信念と執念
世界は地獄に向かっているのか?
ユーゴスラヴィアという連邦国家がかってあったことをどれほどの人が覚えているのだろう。本作は、ソ連崩壊後の東欧革命の最終段階となる旧ユーゴ解体、ボスニア・ヘルツェゴビナの独立にあたって新ユーゴ(セルビア・モンテネグロ)が武力干渉を行ったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景とする。首都サラエボは4年間に渡って包囲され断続的な砲撃や狙撃兵による銃撃を受けた。また、サラエボが解放された後も南部地区での紛争は続き、スレブレニツァの虐殺などがあった(本作でも取り上げられている)これら旧ユーゴ地帯で起こった抗争の特徴は、軍事的にダメージを与えることのみにとどまらず、一方が他方の民族を排除する、根絶やしにするという民族浄化の色彩が強いところにある。スレブレニツァではイスラム系住民の壮年男性のみが8000人以上も殺害されている。
この映画は、そういった状況を十分に踏まえた(だから単なるチャリティーとかの枠でなく)U2がサラエボ市民と連帯する姿を、当時の映像を絡めつつ描いている。実に感動的である。
ただ、問題は、映画の最後で女性の出演者が言っているように「今こそこのようなコンサートが必要ではないか」というところだろう。
エンドロールで、プーチンとミロシェビッチを微妙に並べて見せているところがある。ウクライナも確かにそうだろう。でもガザは?あの状況は30年前のサラエボの全くの近似型ではないのか。
今の我々には、遅ればせながら空爆を実施して戦争を終わらせたビル・クリントンもいないし、舌鋒鋭くジェノサイドを非難した若き日のジョー・バイデンもいない。ホワイトハウスには狂人がいるだけである。
ユーゴ軍より規律、効率性の高いイスラエル軍はアリ一匹占領地に入れないし、ユダヤ資本の圧力があるからというのは勘繰りすぎかもしれないが音楽家はじめ芸術家たちの支援もサラエボのようには目立ってない気もする。
我々はこの30年間何を学んできたのか?進む先にはもはや地獄しか待っていないのだろうか?
最高の映画
今のところ今年観た映画でNo.1❗️
冷戦後のソビエト崩壊後、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、音楽、そしてU2との出会いなどがカウンターカルチャー的にサラエボの人々の気持ちを支え、日常を取り戻す姿を描いたドキュメンタリー。
今のところ今年観た映画でNo.1。
泣きすぎてコンタクトが外れた。
政治ドキュメンタリーとしても見応えあるのはもちろん、音楽映画としても、ラストのU2の和平後のコンサートで一曲ごとに泣くほど感動した。驚きのエンディングロール曲でも泣いて、涙が枯れ果てた。
この映画を知ったのはピーターバラカン映画音楽祭の「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?」のトークショー。知らなかったら、地味なポスタービジュアルでスルーしてたと思う。
音楽以外でも、最近観た「宝島」で受け取ったメッセージと同じことをU2のボノがインタビューで話していて震えるほど感動した。
特に80年代のU2が好きだったあなたは、是非劇場でみていただきたい!
政治的なメッセージとしては、いろいろ理解して観ないと誤解を与えそうな危うさもある。
ウクライナ戦争のきっかけに関わってたバイデンが、当時はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争について議会で熱っぽくアメリカ(NATO)介入を主張する姿には苦笑いしかない。ヤツは変わらないねえ。
その結果、アメリカ(NATO)がヒーローみたいに登場しますが、NATOの爆撃の下には少なからず無辜の市民もいたはずですから。
あと、今だからパレスチナ、ウクライナに対するアラート的な描写があるけど、一緒にするのはちょっと乱暴な考え方かな。それぞれの本質を見極めないとホントに平和を考えることにはならないと思いますね。
影響力と生活
今こそ必見の重要作
多民族が共生するサラエボの街を突如自国の軍隊が包囲しジェノサイドを始める。レイシストはプロパガンダを叫び自らを正当化する。
4年にも及ぶ包囲の間、住民たちを正気に繋ぎ止めたのはロックや芸術の力だった。それを知ってボノに繋いだのは一人の無謀なアメリカの若者だったし、紛争終結後に民族も宗教も関係なく人々をふたたびひとつに結びつけたのもまたU2のロックだった。
本作で流される音楽はU2だけでなく、クラッシュ、パブリック・エネミー、ボブ・マーリー、みんな体制のプロパガンダに抵抗してきた人たち。これほど音楽の持つ力を確信している人たちがいたから世界は一歩先に進むことが出来た。
本作はU2の音楽ドキュメンタリーなどではない。支配に抵抗する人たちと彼等を支える音楽の力についてのドキュメンタリーだ。これほど感動的なドキュメンタリーを観たのは初めてだ。自由と多様性の賛歌だ。ビバ、サラエボ!ビバ、ロックンロール!
翻って僕らはどうだろうか?プロパガンダに抗うことが出来ているだろうか?本作を観れば、レイシストどもの愚かさはこれほど明らかなのに、対抗できているだろうか?
作中でも語られるとおり、当時よりも今こそこのコンサートが必要な状況となっている。「外国人は出て行け」と思っている人は、本作を2万回観て自省した方が良い…
今こそ必見の重要作!
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