劇場公開日 2025年9月26日

「芸術やカルチャーがもたらす力に圧倒される」キス・ザ・フューチャー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 芸術やカルチャーがもたらす力に圧倒される

2025年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

約30年前のボスニア紛争、とりわけセルビア人勢力がサラエボを包囲し、市民に砲撃や銃撃を浴びせた数年間に焦点を当てたドキュメンタリーである。しかしこれは紛争の記録にとどまらない。実はその戦下では市民が夜な夜な地下会場でディスコやライブを開催し、極めて特殊な音楽ムーブメントが生まれていたと言うのだ。そこに決定打を与えたのが、U2とサラエボ市民との交流である。この知られざる一連の歴史の裏側は、展開を見守るだけでもドキドキするし、人間の絆や音楽が持つ可能性についても大いに考えさせられる。当時を述懐する多様な顔ぶれも素晴らしく、決してU2の存在をメインに据えるのではなく、あくまで主役はサラエボ市民であり、音楽の力そのもの、という照準の当て方も練り抜かれている。あれから30年。相変わらず世界から悲しみはなくならない。が、希望を捨ててはいけない。本作には現代に向けた力強く崇高なメッセージが詰まっている。

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牛津厚信