劇場公開日 2025年8月8日

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「現代アメリカ政治の暗部に通じる半世紀前の”悪魔崇拝”」サタンがおまえを待っている 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 現代アメリカ政治の暗部に通じる半世紀前の”悪魔崇拝”

2025年8月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

題名からしてホラー作品かと思いきや、実際には1970年代のアメリカで流行した「幼児虐待の告発」を追ったドキュメンタリーでした。セラピストや医師が催眠療法などを通じて患者の「子ども時代の虐待の記憶」を掘り起こし、社会に訴えるというムーブメントが広がったのです。その先駆けとなったのが、患者のミシェルと精神科医ローレンス。本作では彼らが紹介されます。

ローレンスは、ミシェルの記憶を引き出したと称して「彼女が幼少期に悪魔崇拝教団で体験した残虐な儀式」を世間に公表しました。この衝撃的な告白にアメリカ中が飛びつき、ついには「年間200万人もの子どもが誘拐されている」といった話まで広がり、警察やFBIまで捜査に乗り出す事態に。しかし、結局は精神科医やセラピストによる売名や金儲けのための虚構であることが判明します。

とはいえ、これは単なる半世紀前の笑い話では済まされません。この構図は現代アメリカにも陰謀論として受け継がれているのです。本作でも、2016年のトランプ大統領選で広まった「ピザゲート」や、2020年の選挙でネット上を暗躍した「Qアノン」が取り上げられていました。いずれも「民主党関係者が悪魔崇拝や小児性愛に関与している」という陰謀論を流布し、トランプの当選を後押しする一種の”選挙運動”となったのです。実際、こうした“支持層”の動きもあって、トランプは大統領選で2勝1敗という結果を残しました。まさに笑い話ではなく、背筋の寒くなるような現実を突きつけるドキュメンタリーでした。

以上のように、本作は現代アメリカ政治の暗部に直結する問題を描いており、その点は非常に興味深いものでした。ただ、内容の重さに比して構成がやや平板で、もう少し緩急をつけて展開してほしかったという印象も残りました。

そんな訳で、本作の評価は★3.2とします。

鶏