劇場公開日 2025年11月21日

「なかなか健闘した会話劇は、実にいい加減な世間を際立たせた」金髪 LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 なかなか健闘した会話劇は、実にいい加減な世間を際立たせた

2025年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これは当初、白鳥玉季を観に行ったつもりだった。
しかし岩田剛典の達者な演技と、何より脚本(台詞)のおもしろさに持っていかれた。

白鳥については、もともと『流浪の月』で末恐ろしい子役が出てきたものだと思い、その後は『どうする家康』で凄みのある茶々を演じ、NHK土曜ドラマ『水平線のうた』では阿部寛とからむ準主役を演じていたのを観るにつけ、やはり只者ではないと思っていたからだ。

そういう意味では担任教師・市川の位置づけはまったくノーマークだったのだが、蓋を開けてみれば、いやこれ、岩田の独壇場ではないか。しかも見事。

岩田剛典は『虎に翼』で初めて知った。EXILEだったんですってね。猪爪寅子(演:伊藤沙莉)の法学部の同級生で、紳士ヅラをした上から目線のマンスプレイニング野郎の花岡悟を見事に演じていた。

この物語でも、それがさらに一歩進めて(笑)「あーこれ絶対、公立校のヤル気がないのにやってるふりをする教師が言いそうな小役人的な屁理屈だよねーと思える独白」になり、さらに加えて「自分をオジさんと自覚しないイタい独白」が、これでもかとオンパレードされる。

そして当然、板緑(白鳥)ら中学生たちと会話がまるで噛み合わない。
さらに恋人である門脇とも決定的にすれ違って滑りまくる様子には、席で何度もくすくす笑ってしまった。一度は大爆笑。
台詞、演技、演出、編集が上手くて、絶妙な間も計算されている。
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ストーリーやテーマには、レビューでも毀誉褒貶があるようだ。
しかしこの映画は、そもそも校則の是非や、ルールを守るか否か、あるいはステロタイプな「SNSの危うさ」を問うているのではない。

要は「世間」や「権威」や「ムーブメント」というものはイカサマに近いレベルで不安定、不確実で、つまりは付和雷同の不毛なエネルギーが繰り返されるだけの滑稽な現象に過ぎない、と言っている。
合理的な理由が説明されないルールに対し「おかしい」とシンプルに疑問を投げかけ、疑問を取り下げず、金髪をやめない板緑だけが、ダラダラと流れ去っていく思考停止&付和雷同の淀みの中に動かぬ杭となっている。

その「いい加減な世の中」の代弁者であり代表者が市川教諭だ。
いい加減な世の中の代表らしく、職員会議でも生徒への説明でも市の教育委員会の聞き取りでも、実にいい加減な不毛な言葉でその場しのぎをしまくり続ける。

この板緑と市川の対比によって、2人をめぐるすべての「周囲」のいい加減さが強烈に際立って見えてくる。

では、最後に2人は、鑑賞者にカタルシス(解答)を与えてくれるのか?
そうは行かない。
だから不満なレビューが出るのかもしれないが、要は「あとは自分で考えて」と問われるからモヤモヤするのである。
それは、観る側のネガティブ・ケイパビリティが問われている。

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LukeRacewalker
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