「銀行勤め27歳独身腐女子が出会った3次元歌舞伎町ワールドはどこか2.5次元風で儚げだけど とても優しい世界だった 今 問いたい「おせっかい」の意義」ミーツ・ザ・ワールド Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
銀行勤め27歳独身腐女子が出会った3次元歌舞伎町ワールドはどこか2.5次元風で儚げだけど とても優しい世界だった 今 問いたい「おせっかい」の意義
原作は金原ひとみの同名小説。私はこの小説を読み始めたとき、主要登場人物が今まで自分の周囲にはいなかったタイプで、かつ、これからの人生でもまあ出会わないであろう人たちで、あまり共感できないなあと思いながら読み進めていたのですが、読み終える頃にはそんな人たちがとても愛おしく思え、優しい気持ちになれました。そんな素敵な小説で長さも手頃なので、映画化には向いてるだろうなとは思っていました。
映画のほうもそんな原作小説の世界をうまく表現していて好感を持ちました。脚本も書いた松居大悟監督の演出もちょっとダサめながらも素直な感じで、主人公 由嘉里(演: 杉咲花)がずっとハマってきたワールド、擬人化焼肉アニメ「ミート•イズ•マイン」の世界、及び、彼女がこの作品の冒頭から出会うことになるニュー•ワールド、すなわち、ルーム•シェアを始めることとなったキャバ嬢ライ(演: 南琴奈)を始めとする新宿歌舞伎町に集う人たちの世界が、笑いを誘うシーンを交えつつ、うまく表現されていました(いわゆる「推し活」の描き方が類型的で陳腐なのがちょっと残念だったけど)。
キャストの人選とそれぞれの演じ方もとてもよかったです。南琴奈は初見だったのですが(たぶん。まあ初めて認識したということですね)、原作で読んだライの雰囲気をよく体現していました。道ですれ違えば皆が振り返るほどのルックスのよさを持ちながら、物憂げ、投げやりで、「死にたみ」希死念慮とともにヌルくなんとなく生きてる感じがよく出ていました。南琴奈は2006年生まれでまだ19歳なんですね。俳優としてのキャリアが彼女よりかなり長く9歳年上の杉咲花との共演だったのですが、健闘していたと思います。
映画化ということで生身の人間が演じ、そこに具体的な背景が映るとなると、やはり小説を読んでいたときには見えていなかったものが立ち昇ってくることがあります。ライとルーム•シェアを始めた由嘉里が推し活グッズを取りに実家に戻って母親(演: 筒井真理子)と出会い、話し込むシーンがあります。実家の周囲がそこそこのクラスの人々が住む住宅街にあり、実家がちゃんとした門のある一戸建てであることがわかります。父親はもう亡くなっているようですが、経済的には恵まれている家庭であることがうかがえます。それと、これは私の推測ですが、由嘉里には兄弟姉妹の影があまり感じられず、ひとりっ子ではないかと思われます。由嘉里は幼い頃から経済的に何不自由のない環境で両親の愛を一身に受けて育ってきたようですが、どこかの時点から、自分の幸せを願う母親の気持ちが煩わしくなってきたようでもあります。実は、この母娘、ライの希死念慮を心配して幸せに生きてほしいと願ってやまない由嘉里のことも考えると、やはりよく似てるんですよね。まあでも、母親と二十数年来いっしょに暮らしてきた由嘉里にとっては、旧来型の幸せを願う母の気持ちはどうしても過干渉になってしまうということなのでしょうか。
これに対して、ライやホストのアサヒ(演: 坂垣李光人)、小説家のユキ(演: 蒼井優)、バー「寂寥」のマスターのオシン(演:渋川清彦)等の新宿歌舞伎町に行き交う人々の家庭環境や過去については、ユキが悲惨な過去を少し話すぐらいで語られることは余りありません。お互いに本名を知らないぐらいなので、まあそのあたりは特にいいでしょ、といった感じで、皆、根無草的な雰囲気が漂っています。そんな根無草みたいで、周囲から愛されたり干渉されたりした経験に乏しい(たぶん)ライからしてみれば、ゴミ屋敷と化した自分の部屋をきちんと掃除してくれて、ゴミの分別の指導までしてくれた由嘉里の存在は、時にはウザいと思いつつ、やっぱり嬉しかったのではないかと信じたいです。
思えば、由嘉里とライの出会いは泥酔いして路上に座り込んでいた由嘉里にライが声を掛けたことから始まっています。私は小説を読んだときから、この話はなさそうでいて実はありそうな話だと思っていました。銀行に勤めるOL(死語?)とキャバ嬢が知り合っていっしょに暮らし始めるためには、東京が江戸だった頃からある、親切とかおせっかいとかが鍵になりそうです。でも悲しいかな、21世紀の東京では親切やおせっかいがリスクになることもあるんですけどね。
この話、ラストでライのことを思えば、けっこう辛い話のような気もしますが、なんだか優しくてほっこりするような鑑賞後感があります。由嘉里が自分とはまったくと言っていいほど来し方行く末が違っているライに施した数々のおせっかいは意味のあることだったと信じたい。ミート•イズ•マインぐらいしか「ワールド」を経験してこなかった由嘉里が歌舞伎町の友人たちという「ワールド」と出会い、これからもいろいろなワールドと向き合いながら、お母さんとも仲よくして幸せに暮らしてゆく未来を願っています。
共感ありがとうございます。
職場に同志が居た!はちょっと安易だと思いました。何故か、板垣くんの離婚回避出来ず!のLINEがグッと来てしまいました。リテラシー高っ!
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