「iPhoneが可能にした古くて新しい映像が随所に」ラストシーン 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
iPhoneが可能にした古くて新しい映像が随所に
27分間のショートストーリーに、日本のドラマの未来、テクノロジーの進化、その中で消えていくものと残るものを描きこんだ是枝裕和の脚本は、程よくテーマが凝縮されていて詰め込んだ感じはしない。タイムスリップとそれに伴うパラドクスの処理も、辻褄合わせと思わせないところがいい。要するに、全編をiPhone 16 Proという最新ツールを使っていても尚、変わらず是枝ワールドなのだった。
古びたフィルムのような色彩と、俳優たちが疾走するシーンでもブレないカメラワークは、改めてiPhoneムービーの可能性を感じさせる重要なポイントだ。古くて新しい映像をさりげなく可能にしているという意味で。
これを観て強く感じたことは、たとえそこにテクノロジーが人智を超えた未来が待っていようとも、監督はもちろん、俳優という存在が我々にとって必要不可欠だということ。特に、未来から飛んできたというヒロインに最初は戸惑い、やがて、本気で思いを重ねていく脚本家役の仲野太賀が表現する微妙な感情のうねりに、思わず引き込まれた。是枝監督が『いつも脚本を書く時にこの人にいて欲しいと思う』と語る是枝組の常連、リリー・フランキーのコメディリリーフぶりも楽しいことこの上ない。
結果的に、デジタルの最先端を使った作品は、その機能を最大限利用した上で、人肌を感じさせる1編になっていた。
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