「痛みごと抱きしめて」君の顔では泣けない aさんの映画レビュー(感想・評価)
痛みごと抱きしめて
切なくて切なくて、苦しくてたまらない。
けれど、喫茶店の和やかな雰囲気から始まり、
微笑ましい2人のやりとりも多く、
複雑なのに、どこか温かい気持ちになる。
入れ替わった“後”の2人しか知らないまま
物語が始まるのは、とても新鮮だった。
入れ替わる前の彼らを知らなくても、
高校時代を含め、確かに「まなみの姿をした陸」と
「陸の姿をしたまなみ」だった。
言葉にはならない思い、繊細な表情のひとつひとつが胸に刺さり、
その演技力にただ圧倒される。
これまでの入れ替わり作品でいえば、
「入れ替わることで相手のことを知る」
「必ずどこかに元に戻る方法がある」
というのが定番だという印象だったが、本作は違う。
非常にリアルで、それが本当に切なくて苦しい。
葛藤しながらも、それぞれの人生を見つめる。
唯一無二の良作だった。
「自分だったら...」と考えながら観ていたからというのもあるけれど、
それ以上に、自然と感情移入してしまう。
カメラワークもすばらしく、
まるで自分もその場にいるかのような没入感だった。
冒頭で「元に戻る方法がわかった」と聞いたとき、
15歳から30歳までという、人生の中でも特に濃い時間をその体で過ごしてしまって、
これまで関わってきた人や、今一緒にいる人のことを思い、「今さら戻りたくないだろう」と思った。
しかし、これまで気丈に見えたまなみの独白を聞いて、
胸が痛む。
突然、他人の、しかも異性の人生を生きることになり、
戻れる兆しもない。
女性だからこそ体験できたはずのことがあって、
しかもそれを夢みていたのなら、なおさら...。
自分の居場所も未来も一度に奪われたような絶望の中で、
どれほどの思いで15年を過ごしてきたのだろう。
私も、まなみの心遣いや痛みに気づきもせずに
陸と同じように“お気楽なやつ”とさえ思ってしまっていた。
ただ、どこにも吐き出せない本心を隠して
明るく振る舞うことで心を保っていただけなのに。
そして、思い返せば——入れ替わってしまった日から
“戻る方法”を探していたのはまなみの方だった。
「そんなこと知ったこっちゃない」よな…。
「今さら」と軽率に考えてしまったことを、ひどく後悔した。
入れ替わった自分の体は、自分が諦めた夢を叶えている。
それを知ったときのまなみの反応…
まなみの強さと優しさと、その苦しみに
やるせない気持ちでいっぱいになり
戻ってほしい、と心から思った。
最後のカット、あなたにはどちらの結末にみえたのだろうか。
「どちらがいいのかわからない」
だからこその終わり方なんだろう
私は濁してくれてよかったと思っている。
どちらになっても痛みは伴う。
でもきっと、2人ならどんな姿でも素敵な人生を歩んでいける——そんな希望を持てている。
しかし、まなみのためにも願わくば戻ってほしい。
陸の旦那は気がついていたのかな...。
陸の旦那がリョウであることも、救いだと思った。
「君の顔では泣けない」
だって、“自分の人生ではないから”。
そう過ごしてきた2人が、“自分の人生”に向き合っていく物語。
もう一度観たい。
2度目はどのような結末にみえるのだろう。
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髙橋海人は恐ろしいほど憑依型俳優だなと改めて感心した。
〈追記〉
2度目の鑑賞
まなみの抱えていた想いを知ったうえで観ると、さらに切ない。
そして、ラストの結末は1度目とは違ってみえた。
苦しいけど、とてもおもしろい作品だ。
15歳から30歳まで行き来する構成は、
まなみの「もし、戻る方法が見つかったらどうする?」という問いに対する、
陸の“頭の中の整理”そのもののように感じられた。
戻るか戻らないかの葛藤と、
それに至る15年間の出来事や想いが、
自然に流れ込んでくる。
丁寧で、美しいつくりだと改めて思った。
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