「『カラダ探し』を思わせるループ型ホラー」アンティル・ドーン 日本年金機構さんの映画レビュー(感想・評価)
『カラダ探し』を思わせるループ型ホラー
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人気ホラーゲームを原作にしながら、物語構造を大胆に組み替えた意欲作。
ゲーム版が選択と結果の連鎖を軸にしていたのに対し、映画版は“夜”を繰り返すタイムループ型ホラーとして再構築されている。その構造は、日本のホラー漫画・映画『カラダ探し』にも通じる。夜ごと恐怖を繰り返し、仲間と協力して脱出条件を探るという展開は、観客にゲーム的な緊張感を与える。
ループの中では、長く留まるほど人間が“夜”の一部となり怪物化する設定が盛り込まれ、13回目で背中に変異の兆しを見せる仲間の描写などが印象的だ。これは『カラダ探し』における「赤い人」=元人間の構造と重なり、恐怖の質を高めている。
物語の核は、主人公クローバーの姉メラニー。彼女は黒幕ドクター・ヒルの実験で夜空間と完全同化し、ループを維持する“アンカー”となっていた。多数の行方不明者がいる中で、なぜ姉だけが核なのか──それは初期実験の唯一の成功例であり、主人公にとって最も感情的な負荷を与える存在だからだ。
クライマックスでは、クローバーが杭でメラニーの心臓を貫く。この杭は単なる武器ではなく、空間を終わらせる“キーアイテム”であり、「愛する者を手にかける」という心理的トリガーとセットで初めてループを破壊できる。物理的勝利と精神的決断が重なる瞬間は強いカタルシスを生む。
ただし、背中の変異やヒル博士の再生構造など回収されない要素も多く、終盤の“新たな犠牲者”演出も含め、続編前提の作りが単体作品としての完結感をやや損ねている。それでも、『カラダ探し』のスリルと原作ゲームの世界観を融合し、“夜の侵食”という新たなモチーフで描いた本作は、恐怖と悲劇の交差点に立つ挑戦的なホラーだ。
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