「いつまで希望(アマル)の地を求めて彷徨うのか?」ザ・ウォーク 少女アマル、8000キロの旅 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
いつまで希望(アマル)の地を求めて彷徨うのか?
空爆で故郷のアレッポを失い、トルコの難民施設で一人で暮らすシリア人少女のアシルと、9歳の少女を模った身長3.5メートルの人形アマルという二人の「少女」が主人公。2021年に実施された The Walk というパフォーマンスを追ったドキュメンタリーとして2023年に制作された。
アマルは世界中の難民の子供たちの苦しみと悲しみの象徴であり、トルコのシリアとの国境から出発し、トルコからギリシャへ、そしてイタリア、バチカン、フランス、最後にイギリスに到着するまでの8000キロを徒歩で旅する。
アマルはプラカードを掲げたり、何かを叫んだりするわけではなく、道ゆく人々に視線を向けるだけ。そんな道ゆくアマルに対して、素直に喜ぶ子どもたちや歓迎する人々もいれば、憎悪(ヘイト)の言葉を投げかける排外主義者や全く無関心の人々もいる。そんな時どきのアマルの表情が、人形であるにも関わらず、全く違って見えるから不思議だ。アマルの人形使いであるシリア難民とパレスチナ難民の気持ちもそこに反映されているのかも知れない。ここにまさに現代社会の縮図を見て取ることができる。
外を歩いているがことばは発しないアマルの心の内は、難民施設から外に出ることが許されないアシルのことばとして発せられる。そして、自由の象徴として大空を羽ばたく鳥(鳩)が二人を繋ぐ。
彼らが本当の故郷にたどり着くことはできるのか、それともアマルはいつまでも彷徨い続けなくてはならないのか?希望(アラビア語では「アマル」)の地を見つけるまで……。
大人たちの勝手な都合で「子ども時代」を奪われている4000万人もの子どもたちに対して、私たちは何を考え、どんな行動を起こすべきなのか。しっかりと自問する必要があるだろう。