「取り返しのつかないことを」黒川の女たち きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
取り返しのつかないことを
取り返しのつかないことを
ペラペラと喋りまくった男たち。そのふざけた心情は何処からくるのか。
ましてや弟までが。
逃げられない自責の思いからか?それとも拭えない過去の罪科と、その余りの悔いの大きさゆえか。
男たちは沈黙の緊張に耐えられずに、言い訳とアウティングを喋ることでなんとか自らの《生け贄》の責任を稀釈しようとしたのか?
でももしも自責の念があったのなら、男たちは一言も漏らさずにそのまま墓まで持っていき、死んでいってもらいたかった。
同性の男であることがこんなにも悔しくて恥ずかしい。
そして「これ」を引き起こすから戦争はダメなのだと、改めて世を説得すべきと思った。
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戦争とレイプは男の専売特許だ。
男は戦争とレイプに走る。元々別物のこの二つが残念ながら直結してしまうシチュエーションがある。戦場だ。本能が男を突き動かすし、それをさせる。
戦場での生命の危機は=アドレナリンを爆発させる。=そして死ぬ前に、訳も分からず、子孫を何とかして残すための=“行為”のスイッチが入る。
止められない。
その結果男は女を手籠めにする。
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本作が完成し、上映に漕ぎ着けるまで、その取材や撮影の進捗についての記事を、文字でずっと追ってきた僕であったが、その間にも世界各地で戦争は繰り返されている。
積み上げられた遺体の写真も見た。
「下半身裸の女性の遺体」は、恐らく誰かがせめてもの思いやりでうつ伏せにひっくり返してくれてやったのだろうが、
腰からお尻まで生皮が剥けて赤い地肌だった。なぜだか分かるだろう。
黒川
・「いいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし」のケダモノの声。
・「今もよみがえるロシア兵のベルトを外すときのカチャカチャ音のトラウマ」。
・「あっという間だった」という人身御供に供されたの娘の初日の思い出。
これら衝撃的なエピソードは、なぜだか映画では穏やかに省かれていた。
文字で読んできたこれまでのレポートよりも、ずっと淡々としてソフトで抑えた映像だったと僕は感じたのだ。
現地岐阜県での上映はどんなふうだったのだろう。
こんな事になるから男は戦争を止めなければならないのだと、観賞した男たちは感じられただろうか。
逆に
こんな事になるのだからさらに軍備を増強し、敵軍に勝たなければならないのだと、相変わらず言い続けるのだろうか。
「カミングアウトしたお祖母ちゃんを誇りに思う」と劇中語るのは女の孫だけだった。授業も女子校。
男へのインタビューが圧倒的に弱い。
・・
長野から渋谷まで遠征して鑑賞。
満員で、上映後松原文枝監督のトークあり。
◆なぜ取材時の耳をふさぎたくなるような生々しい証言は省いて生き残りの女性たちを守るために?優しくソフトにフイルムに収め、
碑文建立に奔走した男たちの姿に主眼をスイッチしたのか。
◆これで(こんなんで)ドキュメンタリーとして仕上げた真意は?理由は?まだ本人がご存命だから忖度もしたいよなぁ・・
それを監督に直に訊いてみたかったが、帰りの電車の予約があり、中座したのが悔やまれる。
詳細にして長大なあの「碑文」にペンキをぶっかける人間が出てくるだろうか。
ずっと考えていて、レビューまでもこれだけ日が経ってしまった。
(渋谷 ユーロスペースにて)
⇒どうしても「コメント不可」になってしまいます、システムの不具合でしょうか。