劇場公開日 2025年7月12日

「人権尊重の歩みを進めてきた成果」黒川の女たち sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 人権尊重の歩みを進めてきた成果

2025年8月31日
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鑑賞方法:映画館

もとになった番組は、放送時に試聴済みだったが、今作は幾重にも深まりを増したドキュメンタリーになっていたと感じた。今年観た、戦争関連の作品の中で、自分にとってはno.1。

自分が強く印象に残ったのは、「接待」の事実を証言された方の孫たちが、口を揃えて「(証言された祖母を)誇りに思う」と語っておられたことだ。
この発言こそ、戦後の日本が、人権尊重の歩みを一歩ずつ進めてきた成果だと思う。
そして、80年間に渡って平和な時代を重ねてきたことで、人としての尊厳について、私たちが想いを致せる環境にある今を、これからも決して損なってはいけないと強く思わされた。

作中、ご自分の「接待」の事実を、長い間証言できなかった方が、お孫さんに「(それを公にされてから)とてもよく笑うようになって、表情が明るくなった」と評される場面が出てくる。
そこからわかるのは、「決して口外してはいけない」というのは、一見被害者の心情を慮ったようにみえても、一貫して加害者(差別者)の論理で、それに従う被害者(被差別者)は、自分で自分を差別していることと同じになってしまうという悲しい事実だ。
差別に関わる事象の際に、よく語られる「寝た子を起こすな」は、やはり完全な誤りであることが、ここでも証明されている。

そうした点で、碑文の建立に力を注いだ、遺族会の4代目会長の尽力には、本当に頭が下がる。
多くは語られなかったが、身内の過ちに向き合わざるを得ない苦しさと格闘しながら、丹念に「接待」の犠牲になった方々を訪問されて、碑文建立を達成された姿勢(寝た子を正しく起こす姿勢)は、先の戦争との向き合い方として、私たちも忘れてはいけないと思う。

最後に、女子校の授業(多分、探究の授業と思われる)で、この問題を取り上げられている先生と生徒たちが描かれたが、こうした加害性と被害性が複雑に入り組んだ事象を、共に真っ正面から考えようとする姿勢に希望を感じた。

戦争に関してのわかりやすい語りは、得てして危うさを多分に含むことがある。そういう意味でも、今作の冒頭で満州事変や関東軍、そして開拓の実態について触れられていた意味は大きく、自分自身も、最近鑑賞した「蟻の兵隊」等とつなげて考えることができた。

戦争にとどまらず、人の尊厳について考えるきっかけになる作品なので、ぜひ多くの方が、観て考えて下さることを願っている。

sow_miya