「戦後80年。戦前・戦中・戦後の「事実」の検証はなにも終わっていない」黒川の女たち かなさんの映画レビュー(感想・評価)
戦後80年。戦前・戦中・戦後の「事実」の検証はなにも終わっていない
この映画は岐阜県黒川村の村人がなぜ満蒙開拓団員となって、満州に渡りどのような生活をしていたかを、映像で説明しているので当時の状況をよく把握できた。ことはソ連が侵攻してからおこった。関東軍は開拓団員になにも知らせず退却し、そして敗戦。開拓団員は誰の助けもなくソ連の支配下に入る。そして満州を支配していた日本人は、現地の中国人を侮蔑する扱いをしていたから、中国人から復讐を受けることになる。
黒川開拓団の上層部は、中国人から身を守るためソ連将校に協力を依頼した。その見返りは、若い女性の性接待であった。なんとか黒川村に引き上げた開拓団の上層部は、性接待をなかったこと不問にした。村では性接待した女性たちに噂をたて汚れた女として差別した。
時を経た後、当事者の老女数名が性接待の事実をありのままに話し出した。誰が呼びに来てどのように性接待したのか、詳細に。見ていて驚いたのは、自分たちの行為を堂々と話す老女らの姿だ。
老女たちの行為は、恥部ではなく、黒川開拓団員全員の身の安全を守るためだという信念からのものだった。誰に恥じることもない、自分に恥じることのない勇気は、このあった「事実」を後世に伝える、残さなくてはいけないというただ一つの思いだけだ。その気迫に圧倒されてしまうばかりだ。
松原文枝監督は「事実」を語る老女たちと真正面から向き合う。本人たちだけでなく、遺族や関係者にもカメラを回し「事実」をあぶりだす松原監督は伝承者として老女とともに存在し、特に村の「男社会の論理」が今まで不問にしてきたことに大きな疑念を持ち、問い正す強い意志を感じた。
今年は戦後八十年。戦争は本当に終わったのだろうか。今まで知らなかったことが幾多もあるのではないか。戦後八十年の「検証」は本当になされているのか。戦前・戦中・戦後におきたすべての国民の死と生きる苦しみの「事実」が、すべて伝承されていないし「検証」できていないのだ。松原監督は「事実」をフィルムに刻印し残し伝える使命感を持ち「検証」したのだ。
