劇場公開日 2025年8月22日

「岡本には「でたらめ仮説/秩序仮説」的な未来が見えたのだろう」大長編 タローマン 万博大爆発 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 岡本には「でたらめ仮説/秩序仮説」的な未来が見えたのだろう

2025年9月15日
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鑑賞方法:映画館

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時は1970年。万博開催に日本がわきたっていたその時、2025年の未来から万博を消滅させるためにやってきた恐ろしい奇獣が襲いかかる!

でたらめな奇獣に対抗するには、でたらめな力が必要。しかし、未来の世界は秩序と常識に満ち溢れ、でたらめな力は絶滅寸前になっていた。CBG(地球防衛軍)は万博を守るため、タローマンと共に未来へと向かう!(公式サイトより)

もともとはNHK Eテレの深夜の5分番組から大きなブームとなり、ついに映画化まで果たして作品。

アレルギー疾患の発症原因としてしばしば用いられる学説に「衛生仮説」というものがある。子どもが小さいときに衛生面できれいすぎる家に住んでいると、アレルギーの原因となる細菌や微生物へ触れる機会が減り、その結果、免疫機能が十分に発達しないため、アレルギー疾患や免疫系の病気にかかりやすくなるという考え方である。仮説とついているだけに、この考え方自体は確立されたものではないが、本作で描かれている「でたらめ」と「秩序」もちょうどそのような関係性にある。

1970年開催の大阪万博では「人類の進歩と調和」を大テーマに、世界大戦が終わった各国が宇宙船や月の石やロボットを展示し、日本のみならず、世界中が沸き立った。万博自体、国威発揚・産業振興・技術礼賛のための装置としてスタートしており、イベント性や娯楽性でコーティングしながらも、アジテート的な意味合いは色濃い。

そうした役割を持ち、かつ「人類の進歩と調和」というテーマを掲げる万博のコンセプトを展示解説する任に就いた岡本太郎は「人類は進歩などしていない」と真っ向から否定し、太陽の塔を作り上げたという。

当時の進歩の多くはテクノロジーの進歩であり、宇宙や物理法則や自然を解き明かし、秩序立てて人間の使いやすいように改変することを意味したが(いまでもそうだが)、岡本はそれを進歩とは呼ばなかった。もっと人間の根源的な、奥底に眠る、自分でも気づかないような、時代性にはそぐわない「でたらめ」が、進歩による「秩序」によって浸食、封殺されていく、前述の喩えになぞらえるなら、「でたらめ仮説/秩序仮説」的な未来が見えたのだろう。史実として伝わる太陽の塔の制作と展示はかれなりの反逆だった。

一方で、作中、ある登場人物が口ずさんだ「でたらめだけでは生きていけない。でたらめと秩序の不協和音を同居させながら生きていく」という科白にハッとさせられる。

そういった文脈で、「でたらめ」な世界観は徹底的に作り込まれている。ふざけっぷりレベルとしては「翔んで埼玉」に匹敵するが、この世界観で105分はちょっと長い気がした。やや疲れた。

えすけん
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