「【”様々な人心の”廃墟”が絡み合い、惹き起こしてしまった出来事。”今作は、父親に成れなかった男と、成りたかった男と、二人の間で逡巡する女の姿を通して、哀しく重い家族愛を描いた物語である。】」Dear Stranger ディア・ストレンジャー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”様々な人心の”廃墟”が絡み合い、惹き起こしてしまった出来事。”今作は、父親に成れなかった男と、成りたかった男と、二人の間で逡巡する女の姿を通して、哀しく重い家族愛を描いた物語である。】
■アメリカ、ニューヨークの郊外。
大学で日米の”廃墟”論を研究する助教授の賢治(西島秀俊)は、台湾人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)と分担しながら、5歳のカイを育てている。
ジェーンは、アートディレクターを務める人形劇団の活動が、育児により思うように出来ず、苛立つ日々を送っている。
ジェーンの両親が営む雑貨店に強盗が入ったり、二人が買い物に行った時にスーパーの駐車場で何者かに”BLANK”とスプレーで車に赤く落書きされたり、二人の周囲は不穏な空気に包まれている。
賢治と妻ジェーンの関係も、良好とは決して言えず、口論が絶えない。
そんなある日、賢治が大学にカイを連れて行った時に、カイが行方不明になるのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・序盤から、不穏な雰囲気が横溢した作品である。久しぶりに映画に出演してくれたグイ・ルンメイの活躍を楽しみに観に行ったのだが、彼女も笑顔は殆どない。
息子に甘い両親に注意し、ゲームばかりしている息子を叱り、夫には家事をしないと苛立ちを隠さない。
・賢治も、大学で日米の”廃墟”論を研究し、講義するが、教授たちからはプレッシャーを掛けられている。
登場人物皆が、何処か追い詰められており、平穏感はない。
・そんな家族に、次々と禍が起きる。まるで家族の絆を試されるように。
その中で明らかになって行く、ジェーンが且つてドニーという男と付き合っており、妊娠したがドニーはそれを知って、彼女を捨てたという事実。
その事をジェーンは賢治には告げずに、カイは彼の息子と言い育てて来た事。
だが、その虚構は、ドニーに父性が戻り崩れ去って行く。ドニーはジェーンの両親が経営する雑貨店に強盗に入り、その顔を防犯カメラに晒し、更には夫婦の車に”BLANK”とスプレーで車に赤く落書きするのである。
■その事で、賢治は妻が内緒にしていたドニーの存在を知ったのだと思う。賢治は”廃墟の中に真実がある。”と意味深な事を口にするが、彼はカイが攫われていた場所を知っていたのである。
そして、ドニーと賢治の知り合いの整備工の娘が彼の車から盗んだ銃で、暴発と見せかけてドニーを撃ち殺したのである。
それにより、カイは解放されるが、警察は解決したとは思っていない。賢治を密かにマークしているのである。
そして、賢治が車を運転している時に、整備工の娘はバンで衝突し、血だらけになり社外に出た賢治は、道から出て来た警部に両手を差し出し、自らの罪を認めるのである。
<今作は、父親に成れなかった男と、成りたかった男と、二人の間で逡巡する女の姿を通して、哀しく重い家族愛を描いた物語である。
真利子哲也監督が、全編ほぼ英語で書き下ろしたオリジナル脚本が先読みが出来ずに、面白哀しく鑑賞した作品である。
今作のタイトル”Stranger"は家族に成れなかった、賢治とドニーとジェーンの事を差しているのではないかな、と思った作品でもある。>
