「諸行無常。」Dear Stranger ディア・ストレンジャー tenさんの映画レビュー(感想・評価)
諸行無常。
好きなタイプの作品だった。
父とは、母とは、パートナーとは。
夫婦だって所詮は他人。子は鎹とは言うけれど、子供が親にしてくれると言うのはある意味では真実。
では主人公のケンジやジェーンは?
理想の親になれている?家族にはなれている?夫婦にはなれている?
お互いを大切に想うがあまり本音が言えない。理想の風味像を追い求めるが故に嫌な話題には触れない。それがストレスとなり大きな歪みとなる。けど仕方がない。折り合いをつけることは悪いことじゃないし、皆んな神様みたいに出来た人間じゃない。自尊心も捨てられないし、被害妄想も感じてしまう。
その配慮と我慢が、息子のカイの失踪事件をきっかけに濁流を巻き起こしていく展開が興味深い。
カイを通してお互いを疑ったり確かめあったり。『子は鎹』にならないこともある。ポスターの夫婦の間にいるのはカイではなく人形だ。無表情の。
そう、この作品に出てくる人形は無表情。人形の気持ちは観客が解釈するもの。人形劇のシーンでは劇を観て笑うカイ、笑えないケンジ。人形を通じて己を表現し切って清々しいジェーン…と対比が切ない。
言語も効果的に使われていた。
喧嘩や独り言で感情が爆発するシーンはお互い中国語、日本語。
監督がトークセッションで言われていたけど、ジェーンは夫婦の少し深い問題、ケンジは表面的な問題を母国語で伝えていたのもまた興味深い。
個人的にジェーンの好きなシーンは英語だった。
バーの外でジェーンが『英語』で本音をぶつけるシーン。まるで母国語のように率直で心から湧き出た表現。あぁジェーンはちゃんと進んでいる。歩み寄っている。涙。
ケンジの印象的なシーンは日本語だった。車を運転しながら独り言を言うシーン。『あいつを見つけたかった…』ジェーンにも感情をもっと話せていたら間違った遠回りはしなかったかもしれない。
でも、ラストには明るい未来が見えた気がした。
警察官だって馬鹿じゃない信じたい。
虚偽の自首だってわかったよね?
一緒にここまで落ちたんだから、夫婦で登っていけるはず。
(メモ)
・ジェーンが自宅で人形操作の練習をするシーン。意味もわからず圧倒され、後で思えばストレスが最大限に溜まっていたことが痛いほど分かる。胸を締め付けられる。人形を通じた自分との対話。息を呑み惹き込まれた。
・ケンジが廃墟で拳銃打つシーン。一瞬明るくなった先には人形の幻影。ずっと囚われているケンジの苦悩が苦しい。辛い。
・ケンジが廃墟について語るシーンは全て重要。
・中心にいるようで、絆のようで、問題の核のようで、不在の存在でもあるカイ。まだ4歳。きっと自我が芽生えた未来は明るいはず。
・車の故障音、落書き、雨、雪、NYの住宅街、廃墟となった劇場や学校。人形。全てが登場人物の心の有り様にリンクして意味のある描写だった。
・あの人形劇観てみたい。
・ケンジの講義受けてみたい。
・一見難解なようでとても分かりやすい。
・警察絡みのシーンは所々テンポが悪く感じた。あと15分は短くまとまっていたら最高だった。
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