劇場公開日 2025年10月17日

「北斎の影に生きた女絵師・応為を描く──映像と音楽の調和が光る作品」おーい、応為 leoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 北斎の影に生きた女絵師・応為を描く──映像と音楽の調和が光る作品

2025年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

癒される

先日の『トロン アレス』同様、今回の『おーい、応為』もあまり期待せず、肩の力を抜いて鑑賞した。というのも、過去の『北斎漫画』(1981)や『HOKUSAI』(2020)が正直どちらも印象に残らず、期待値が上がらなかったため。
しかし、本作は良い意味で裏切られた。秀作というより“好感度の高い作品”と呼ぶのがふさわしい。その理由をいくつか挙げたい。

●リアルな日常描写
食事風景や衣装、会話のひとつひとつまで、北斎や応為を含めた江戸庶民の暮らしが丁寧に描かれている。他の作品にありがちな、蔦屋重三郎や歌麿、馬琴、十返舎一九といった人物の“顔見せ的クロスオーバー演出”がなく、あくまで北斎と応為の関係に焦点を絞っている点が好印象だ。
●画家のまなざし
物語は父娘ふたりの絵師に徹底して寄り添い、画家がどのように風景や人々を見て、頭の中で浮世絵として再構築していくのかを映像化している。これは他の北斎作品にはなかった視点であり、実に新鮮だった。
●映像と音楽の妙
日本の四季や庶民の生活を背景に、トランペットとギターによるアンサンブルなJAZZが流れる。意外な組み合わせながら、映像に見事に溶け込み、心地よいリズムで物語を支えている。
特にラスト近く、望遠レンズで捉えた富士山の夕景は圧巻。構図・光・色彩、どれを取っても息をのむ美しさだった。
●二人の俳優
応為を演じた長澤まさみ、北斎を演じた永瀬正敏。
永瀬は海外映画『パターソン』で日本人詩人を演じた頃から演技の深みが増した印象があり、本作でも自然体のまま50代から90歳までを見事に演じ分けている(そのために8kg減量したという)。
一方の長澤まさみは、本作で新たな境地を見せた。男勝りで“べらんめぇ”な気風を持ちながらも、ふとした瞬間に女性らしい色気が漂う。特にキセルを操る所作の艶やかさは、まさに浮世絵的といえる。

総じて『おーい、応為』は、派手さはないが、映画好きの心には確かに響く作品だ。例えるなら、かつてのATG(日本アート・シアター・ギルド)作品のような静かな余韻と趣を持っている。観る人を選ぶタイプの映画だが、じっくり味わうにはうってつけだと思う。

leo
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。