「『鉄蔵』の呪い」おーい、応為 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
『鉄蔵』の呪い
異才と奇才が一つ屋根の下で暮らしたらどうなるか。
『ゴーギャン』と共同生活をおくった『ゴッホ』の
「耳切り事件」のようなコトが起きるだろう。
もっとも、本作の二人の場合はそうならない。
血の繋がりもあり、お互いを思いやる愛情もある。
父『葛飾北斎(永瀬正敏)』は
圧倒的画力と奇想で当代の傑物。
エキセントリックな人柄でも、世に知られている。
娘の『応為/お栄(長澤まさみ)』の性格は父譲り。
男勝りで、きっぷ良し。
絵を描いていれば幸せだ。
才能が無ければ、多少器量が悪くても
幸せな結婚生活を送れたかもしれないのに
なまじ審美眼もあり腕も立つので絵師として独り立ちする。
婚家を飛び出した経緯が象徴的。
やはり絵師であった夫の絵を悪しざまに言う。
その時の彼女の科白が「悪かったな!北斎の娘で!!」
結果、『北斎』晩年の二十年を共に住む。
二人とも家事はからっきしで、
当然料理もできない。
絵を描くことのみに集中したため、
借家が住むに耐えなくなるほど汚れる度に
引っ越しを繰り返したという。
本作は『応為』の物語りを期待して観に行った。
が、実際は父娘の関係性に収斂する。
老いた父を気に掛け労わる孝行な娘。
世間的には評価の対象も、こと彼女に限っては、
そうした姿を見るのもフラストレーションが溜まる。
彼女の絵は、斯界でも至極普通に受け入れられる。
それほどの画力と構成力だったのだろう。
なので、レジスタンスのストーリーにもなっていない。
父の弟子『魚屋北渓/初五郎(大谷亮平)』への淡い思慕の情にも、
深く立ち入ることはない。
二人の日常が淡々と語られ、
『北斎』の死を以って、突然に終わってしまうのだ。
その『北斎』の描写も如何なものか。
度毎に年代が表示されるので照らし合わせるのだが、
1945年(85歳)に小布施に赴き
天井絵〔龍図〕〔鳳凰図〕をものしている。
ここでのよぼよぼな老人に、
あの迫真的な絵が描けるのか。
場所が場所だけに他作のように『応為』の代筆も無理だろう。
原作の一つとしてクレジットされている
『杉浦日向子』の〔百日紅(1983年)〕のアニメ化
〔百日紅 ~Miss HOKUSAI~(2015年)〕の方が
よほど『応為』が躍動していた。
最初の方こそ破天荒だったものの、
その後はあまりにも普通過ぎる彼女の日常描写が
どうにも不満だ。
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