「アメリカあるある、の恐怖」ストレンジ・ダーリン かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカあるある、の恐怖
A24作品みたいな映画。違うけど。
なんの予備知識も入れずに見るのが正解。
アメリカ「あるある」と、その中で繰り広げられる、6章からなるサイコキラーによる惨劇の話。スプラッタホラーに近いかも。
オープニングでシリアルキラーの話を振って、続く6章を順不同で見せ、時系列を交錯させてミスリードを誘うアイデアが良く、観客の先入観と思い込みを弄びどんでん返しを食らわす捻った脚本が上手い。
最初は第3章、70年代風なBGMとたたずまいの中、ちぎれた耳から出血、あざだらけの顔で必死で走るナース服の華奢な金髪女性。どうみても犯罪被害者で、銃を持って追い回す男は、やはりどう見てもシリアルキラー。
ところが、第1章で匂わせる通り、キラーは女の方で、男は保安官。男の名前がDevilで、女の名前がLadyなのも、そもそもひっかけだ。
でも、保安官はシリアルキラーを疑って女に近づいたのではなく、単なる一夜のお楽しみだったもよう。キラーの女は、自分を被害者に見せて同情を得るのが巧みで、思う通りに事態を操り、騙された登場人物が次々餌食になっていく。
チャプターごとにミスリードネタが用意されて、ひとつの場面の解釈が、チャプターが変わると180度変わる。最後まで油断できず、ラストは、ええ、こんな結末!?となるが、さらに「その後」があってようやくオチにたどり着いても、ホントにこれで終わりか?と疑ってしまう。
オープニングで語られたシリアルキラーは、Ladyとは別の人だったりして!? とまで考えてしまった。
アメリカの田舎は、「サイコ」のころからあまり変わっていないよう。
人もモノも、嘘みたいに前時代的なものがまんま温存されていたりする。
広大な土地の、森や山では、何が起きても誰にもわからない。救助も捜査も、もどかしいほど遅いか来ない。叫びはどこにも届かない、事実上の無法地帯が広がっている、それがアメリカの実態のようだ。
道路で派手なカーチェイスの末にショットガン撃ちまくりの大事件は、誰も通りかからないので野放し、Ladyが助けを求めながら、旅行案内所(?)の責任者を殺害、さらに強盗に窃盗の大事件も、通報されていないか対応が遅いかで警察は知らない模様。
Ladyのような殺人鬼が誰にも知られず平然と暮らしていることは普通にありそう。
また、Ladyを冷凍庫に繋いだ後、Devil保安官が同僚に「ちょっとトラブったから来て」と言葉を濁して電話するのは、女とプレイして甚振られた末に違法薬物をやっているため、なにがしかの同僚の「好意」を期待してそうで、保安官事務所内部では、無法までは行かないだろうが、監督機関の目が行き届かないがゆえに、かなり好きなようにやっている臭いがする。(Devilに呼ばれた同僚の保安官は職務に忠実でとても有能だったのに、Ladyに取り込まれた女性保安官に邪魔され、結果やられてしまって悔しい。)
6章全部終わったところで、Ladyがカモにしようとしたピックアップトラックのネイティブアメリカンのお人よしっぽい女性が、冷静で身を守る術を身に着けておりまたもやどんでん返し。よくやったと思ったが、田舎で現実的日常を送る普通の主婦には、これくらい備えるのが嗜みなのか通報も手慣れたもので、電話でスピーディーに無駄なく状況を説明していて、こんなことが日常茶飯事らしいのにぞっとした。
アメリカ、怖い。
森の奥のぽつんと一軒家で二人だけの楽園生活を送る老夫婦は、終末論者にしてサスカッチを避けて生きており今時銃を持っていない元ヒッピー。アメリカあるある、いかにもいそうな人種だと思った。
そして、老夫婦の日曜日の朝ご飯が超アメリカン。
大きいソーセージを8本くらい焼く(美味しそう!)、別のフライパンにバターの塊を投げ込んで、じゃぶじゃぶなバターの海に卵を投入、両面焼きの目玉焼きにして取り出したらパンケーキを焼き、皿に盛り付けさらなる追いバターに茶碗1杯くらいのブルーベリージャムを盛って、仕上げは山盛りのホイップクリーム、とどめで滝のようなメープルシロップ。。。カロリーどんだけ!? でも、ちょっと食べてみたい。背徳感で痺れそう。
老夫婦の朝食のシーン、
「実は他に誰かいるんだな?!」
と思わせられました(笑)
超弩級のカロリーとボリューム。
戦争して勝てるわけないですよね。
┐(´д`)┌ヤレヤレ