「低温のマグマみたいな黒崎煌代がとても良い。」見はらし世代 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
低温のマグマみたいな黒崎煌代がとても良い。
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印象には残るものの、似た感じの押し出しが強い役が多かった黒崎煌代が、この映画ではいくばくかの鬱屈を抱えた現代の若者を演じていて、わざわざ主張はしないが文句はある!みたいな低温のマグマみたいな佇まいがとても良い。心情を説明するようなセリフが全然なく、この役にも役者にもそんなものは必要ないのだという気がしてくる。
その主人公が仕事で運んでいる胡蝶蘭は、花の持つ美しさや生物的な価値は一旦脇に置かれ、ただ社会における儀礼の品として取引され、右に左に運ばれていく。そのバカバカしさはある種の現代建築が持っている空虚さともシンクロしていて、ランドスケープデザイナーというカタカナ職業の父親や彼が関わっている再開発をチクリと皮肉っているようでもある。社長室にいくために屋外の階段に出ないといけない建築事務所のビルを見せるのも自分にはイジってるとしか思えないが、真意は明かさないというかある種の韜晦趣味に見えるのは好みが分かれるところではないか。
そこに介在していないはずの視点を持ち込んだ画作りはときに刺激的だが、才気ばしりすぎていてノイズに感じられることもある。その辺は意図を汲み取れているとは到底言えないので評価しづらいが、あえてハッキリさせずに、言いたいことを言い切らない演出がもどかしくもある。とはいえ若い才能のセンスに同調できないのは年寄りとして当然なので、今はいささか距離を取りながらこれからどうなっていくのか監督の今後に注目したい。いつかこの映画のこともああそういうことだったかともっとわかった気がする日が来るのかもしれない。
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