「ラストへの積み重ねが丁寧で好感が持てる秀作」見はらし世代 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストへの積み重ねが丁寧で好感が持てる秀作
家族を顧みず、仕事一筋に生きてきた父・初(遠藤憲一)と、妻・由美子(井川遥)、長女・恵美(木竜麻生)、長男・蓮(黒崎煌代)の四人家族の物語でした。
初は業界でもそれなりに名の知れた建築家のようで、本作では渋谷・宮下パークをデザインしたという設定。しかし、仕事を優先しすぎたあまり家族との時間を犠牲にし、その結果、家庭は徐々に崩壊。最終的に由美子の死によって家族の絆は完全に断たれてしまいます。物語の主軸は、由美子の死後から数年後、恵美と蓮が成人した現代を舞台にしていました。
まず印象的だったのは、生花店の配達員として働く蓮と、いまだ成功の道を歩み続ける初との対比でした。特に蓮の不遇を際立たせたのが、生花店の上司(吉岡睦雄)との確執です。店のコーポレートカラーと合わないと言って蓮の黄色いウエストポーチを注意する上司の態度や口調は、誰の神経をも逆なでするほどで、吉岡の演技が見事でした。やや高めの声のトーンや、反論を許さない無感情な表情が実にリアルで、思わず拳を握りたくなるほどの嫌味な存在感でした。最終的に、初の展示会に花を届けた際のトラブルをきっかけに蓮は店を解雇されてしまいますが、その一連のやり取りが非常に生々しく、蓮の鬱屈とした心情を非常に良く表していました。
また、何気なく登場したシーンが、後に大きな意味を持つ構成も見事でした。
一つ目は、恵美の受験勉強に使われていた英単語帳。「indispensable(必要不可欠)」という単語が、終盤で家族の絆を象徴する言葉として再登場する場面には深い余韻がありました。
二つ目は、初の「変わらなさ」を示すセリフ廻し。かつて別荘から急遽仕事に戻ろうとした際、由美子に対して放った「水掛け論」という言葉が、現在の部下に対しても繰り返されることで、彼が妻の死や家族崩壊を経ても何一つ変わっていないことが如実に印象付けられていました。
三つ目は、劇中のテレビ番組に登場する「落下する電球」。かつて家族で訪れたドライブインで、何度取り付けても落ちてしまう電球がワイドショーで取り上げられ、その後本作最大の山場で大きな役割を持つとは想像もしませんでした。亡き由美子を除く三人が再びそのドライブインに集い、電球が落下する瞬間に物語は一転、まさかのファンタジー展開へ。そしてこの展開を通じて、初の中に反省と贖罪の念が芽生え、その姿を見た蓮もようやく心の整理をつけることができました。
ラストに至るまでの丁寧な積み重ねが、この突如のファンタジーを自然に受け入れさせてくれる力を持っており、それこそが本作最大の魅力だと感じました。
俳優陣も見応えがありました。蓮を演じた黒崎煌代は、序盤ではややぎこちなさを感じましたが、彼の内面が描かれていくにつれ、そのぎこちなさがむしろ役の不器用さに重なって自然に見えてきました。彼の他作品での演技も気になるところです。
遠藤憲一は言うまでもなく安定した存在感で、井川遥演じる由美子は、苦悩と優しさを湛えた妻の姿を繊細に演じ切っていました。特に、ファンタジーの場面で再登場したときの屈託のない笑顔には、ただただ心が癒されました。往年の”癒し系”は健在でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.0とします。

