愚か者の身分のレビュー・感想・評価
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すばらしい構成によって生み出される余白の豊潤な世界
物語を時系列に従って辿るのではなく、
視点を変えて重複させながら語りつつ、
ときに時間の前後も巧みに入れ替える構成によって、
ミステリー的なハラハラする展開の要素を増幅させている。
彼らが闇サイドに陥る経緯も、
説明しすぎず、映像メインで語られているし、
間接的な表現で観る側の想像に委ねる部分も多く、
ラストも含めて豊潤な余白があってすばらしい。
社会問題を扱った物語で、
北村さん、林さん、綾野さんのお互いに対する
複雑な心情、眼差しはすごく印象的で心揺さぶられるが、
なにより、それらが感情過多で深刻で湿っぽくなりすぎないように、
絶妙にエンタメ要素を残すような、
洗練された巧みな構成の生み出す物語世界に圧倒された2時間でした。
奴等が悪いで済ませたら鑑賞した意味ないですよ
目の覚める衝撃の秀作! 林裕太・北村匠海・綾野剛の3様の描く複眼的構成によりオゾマシイ現実の醜悪が浮かび上がる。ことにも最も若くあどけなさを漂わせる林裕太がヒリヒリと皮膚感覚で観客に訴えてくる。開巻しばらくはセリフが聞き取り難く何言ってるのか?状態ですが、別に途中からセリフが技術的に明瞭になるわけないですが、次第に画面だけでセリフなんかどうでもいいや、となってくるのが凄いのです。
貧困が見え難い所で増殖してしまっている今の日本、子供に限れば約9人に1人が貧困に直面しているわけで、先進国の中でも最悪。これがニッポンの現実なんですね。本作のマモルが言う「給食で腹いっぱいに・・・」と、だから夏休みなど却って困るわけです。本作の根底にはそういった境遇に生まれてしまった子供の不幸が横たわっている。この苛烈な描写を伴う本作はそういった社会の歪を実質告発しているわけで、言い換えれば政治の貧困に他ならない。
否応なしにごく一部でしょうが、こうした泥沼に足を踏み入れてしまう、まるで蟻地獄に吸い取られるように。始めは甘い汁で引き寄せ、気が付いたら引き返せない世界。そんな世界に嫌気がさし始めた3人の若者をそれぞれの視点で巧妙に描く。原作の構成がどぅなっているのか知りませんが、マモル・タクヤそしてケンシの順に視点を変えて同一事象を「羅生門」的に表現。各人の視点と言うより、観客に重層的に現実の奥底を覗かせているような秀逸な表現が圧巻です。
伝統的な日本のおかずである魚の煮付けが2種3度出てくる。高級そうな料理屋で仕事の指令役が煮つけの目玉を食す。あとはタクヤがおばあちゃんの味として器用に鯵の煮つけを作り、最初はマモルが感激し、2回目にはケンシが美味いと喜ぶ。この構成も見事なもので、しかも「目玉」が衝撃に転ずるなんて思いもよらない恐ろしさ、ちょっと耐え難い程です。
金・金・金の渦中に、3人三様の本質的優しさが徐々に滲みだす。当然に組織からすれば邪魔そのもので、命がけで執拗に追い回す。思わぬところで警察の存在も描かれ、バランスはしっかりとってます。暴力団の下っ端組織としての反グレが主人公で、その実態は驚くばかり。だから反グレになったらダメよ、なんて啓蒙は無意味でしょ、だってそんな予備軍達は映画館なんぞそもそも行かない、行けない、行く気もおきない、でしょうから。
監督は永田琴、お名前から女性かと、お初ですが凄い力量をお持ちのようで、冒頭とラストを川で描き、人生の境界線を暗示するなど、素晴らしい。この手の作品に多い手持ちカメラによるブレブレ画面なんぞ一切なし、そしてよくぞ歌舞伎町でロケーション出来たものですよ。時系列をバラバラにした上での組み立てもよく考えられて驚きました。
ただ、3人の過去なり夢なり希望なり、少しでも描いていればより・・・と思うけれど、安っぽくなりそうで、最小限のセリフだけに留めたと思います。向井康介の脚本が本作の屋台骨ですね。あの「リンダ リンダ リンダ」2005年から、「ある男」2022年で国籍売買を扱い、今年の「悪い夏」2025年では北村匠海と、そういえば「ピース オブ ケイク」2015年で綾野剛ともタッグを組んでますね。来月公開の「平場の月」も彼が脚本って凄すぎます。
Jノワールの新たな名作
面白かった!暴力グロシーンは少なめだけど闇社会の怖さは十分に伝わり目が離せなかった。奨学金抱えた女子大生や普通の人がお金の為に犯罪に加担。被害者も犯罪グループに取り込まれていく。東京ではリアル。気をつけて生きてないと、踏み外すとこっちの世界に落ちちゃうよ。
北村匠海って半グレ風でも「根はいい人」オーラ出ててはまり役。彼の過去を振り返るシーンでは涙止まらず。久しぶりに映画館で泣いた。綾野剛がますますセクシーになってました。雰囲気あります。
あんぱん、最終回まで見たけれど
この映画1本ほどには心動かされなかった。北村匠海、髪を染め、すっかり自由になって。もちろん映画のほうが前だろうけど、等身大の若者を自然に演じていた。
やっていることは悪なのに、後輩に指導までするのに、見るからに哀しい。心が穢れていないせいか。亡くした弟と、弟のような後輩への無償の愛。お金では手に入れられないもの。タクヤはそれをおばあさんからかろうじて与えられたらしい。
怖かったけれど、これで安全圏に逃れられるのか、それは一向にわからないが、タクヤと梶谷のラストはよかった。
マモルは、金の入ったリュックを確か道端に置き、川を眺めていたけれど、これからどこへ行くのか。暗転が気になる。
中年になった綾野剛。研ぎ澄まされた若い頃の繊細な印象はすでになく、温かく、情けない。いい男になったなあ。ほとんど声の演技の木南晴夏演じる由衣夏に愛されるのもわかる。
陰の主役として煮付け、冷凍、煮付けと3登場する鯵がいい味を出している。
暗気…いや、儚気
半グレの手先で戸籍売買をしているタクヤと、その弟分のマモルが内輪のトラブルに巻き込まれる話。
「柿崎マモル」のパートで、神田川でじゃれるタクヤとマモルから、お仕事の様子をみせ始まって行く。
所謂そういう世界で生きてはいるけれど、愉しげな様子の2人と協力者の希沙良…と思っていたら、明日タクヤと会うなって?
どうも胡散臭さを匂わせつつも、ちょっと衝撃的な自体に陥って…。
「柿崎マモル」とほぼ同じ時系列をタクヤ視点からみせる「松本タクヤ」パートで答え合わせしてなるほどね…やっぱり胡散臭さ満載ですねあの男(´・ω・`)
そして「梶谷剣士」パートてその後をみせていき、まあもともとがろくでもないヤツらではあるものの、結構エグいしやり切れなさもあって良い感じ。
そのエグさの割には救われる様な感じもあったけれど…そこでマークX出すならもう一声欲しくなるし、それをみせないなら中途半端に出さなきゃ良いのに。
ということで、少々物足りないぐらいのラストに、更にモヤっとが追加されてしまった様な感じ。
面白かったんだけどな…。
身近に潜む怖さを知れる作品
こいつらのやってることは確かに糞だし、良くないことである。しかし、...
愚か者の身分
BL系ノワールの傑作
いわゆる闇バイトで戸籍売買をしている松本タクヤ(北村匠海)と柿崎マモル(林裕太)、そして2人の先輩格である梶谷剣士(綾野剛)の3人の若者の”もがき”を描いた作品でした。”闇バイト”、”戸籍売買”、”臓器売買”、”金塊密輸”など、かなり物騒ではあるけれども実際に報じられている犯罪行為をテーマとしており、しかも闇バイトをしている主人公たちや、戸籍を売ってしまう人達の来し方を聞くと、育児放棄だったり貧困だったりが原因でその道を歩まざるを得なかった境遇がそれとなく描かれていました。そのため、完全なフィクションでありながらも、極めてリアリティのある、実態を伴った物語になっていたところが素晴らしかったです。
そしてヤクザ組織(半グレ組織というべきか)内の人間関係の描き方や、各人の心理描写も非常に巧みであり、また歌舞伎町界隈が舞台となっていて、我々が住む現実社会の地続きにこの作品の物語世界が存在していると感じられたことも、本作の世界観に奥行きを持たせていたように感じられました。
また、伏線の貼り方とその回収も見事でした。全ての小道具に伏線が貼られていると言って良いほどにネタが仕込まれていて、後々その小道具が大きな意味を持つことになる展開は、終始心地の良いカタルシスを与えられているようでした。
以上、いくらべた褒めしても褒め過ぎということはない本作でしたが、最大の特長はBL要素が満載だったことでした。主人公のタクヤを中心に、タクヤとマモル、タクヤとかつての同級生、タクヤと梶谷の関係は、自己犠牲を伴うプラトニックな恋愛感情と言ってよいもので、なるほど男が中心となることが多い任侠物、ヤクザ物とBLというのは、実は相性抜群なんだと初めて気付かされました。臓器売買で眼球を奪われたタクヤと梶谷が逃走先でラブホテルに入り、梶谷がタクヤの髪の毛を洗ってやっていたシーンなどは、BLファンには垂涎だったのではないでしょうか。知らんけど。
最後に俳優陣ですが、まずは主人公のタクヤを演じた北村匠海がとても良かったです。NHKの朝の連ドラではやなせたかし先生をモデルとする役に扮していた北村ですが、反社に陥れられる公務員役を演じた「悪い夏」同様、本作でもどん底にいる役を好演。こうした役柄だと絶品の演技を魅せてくれる北村の次回作にも注目したいと思いました。そしてマモル役の林裕太も、軽い感じを出しつつも、徐々に成長する姿を演じていて、最高でした。これは演技というよりも演出というべきかも知れませんが、マモルの箸の持ち方が極端に下手くそで、これによって育児放棄されて家でご飯を食べたことがないと語るマモルの来し方に説得力を持たせていて、非常に印象的でした。柿崎役の綾野剛は、反社系をやらせれば天下一品なので今さら語るまでもないところですが、キックボクシングの練習風景や終盤の格闘シーンで見せた体の切れ、そしてラブホの入浴シーンで見せた肉体美と、出演時間としてはタクヤやマモルほどではなかったものの、しっかりと足跡を残していました。また、悪役勢も素晴らしく、ジョージ役の田邊和也のド迫力は最高でした。
そんな訳で、BLとヤクザ物の相性が抜群であることを教えてくれた本作の評価は、★4.8とします。
興奮冷めやらぬ前に
原作を少しだけアレンジされていたけど
全く気にならないほどで、もう全編通して
前のめりになって引き込まれる引き込まれる。
綾野剛も北村匠海も最高の演技を見せてくれて
うまいのはわかっていたから、そこはいまは置いといて
本作一番の収穫、大発見、マモル役の
林裕太!!
あのオドオドした田舎者感、
タクヤを兄のように慕う姿、裏切られたと誤解した時の
絶望感、ラストの焦燥感。いい!!めちゃくちゃいい!!
そのほかはあとで追記
満足感でいっぱい
切ない
兄弟のような絆で結ばれた3人の男達の姿に胸が熱くなる
兄と弟のような絆で結ばれた3人の男のそれぞれに焦点を当てた、3部構成の物語なのだが、その主要な登場人物と時間軸が面白い。
第1部と第2部は、主人公(北村匠海)が殺されかけるところまでを、主人公の弟分(林裕太)の視点と主人公の視点から描いていて、「あれは、そういうことだったのか」という種明かしが楽しめるし、弟分が面倒事に巻き込まれないように配慮した主人公の思いやりのようなものも感じ取ることができる。
続く第3部は、第2部の結末を起点として、主人公の兄貴分(綾野剛)が、主人公を連れて、半グレ集団から逃げようとする様子が描かれるのだが、ここでのポイントは、兄貴分が、組織を裏切って逃亡することを決意する経緯だろう。
それは、主人公とその弟分との関係を、そのまま自分と主人公との関係に当てはめたからだろうし、弟分を助けようとしていた主人公と、主人公を売ろうとしていた自分とを重ね合わせたからでもあるだろう。兄貴分は、主人公が、実の弟を亡くしていることも知っているし、それがきっかけで、主人公を闇ビジネスに引き込んでしまったという負い目もあったに違いない。
こうした経緯が描かれているからこそ、兄貴分が、自らの命を危険に晒しても、主人公を助けようと決断する展開に納得できるのだし、兄弟のような絆で結ばれた彼らの姿に胸が熱くなるのだろう。
主要な登場人物である3人が、同じ画面に収まることは一度もなく、あくまでも一対一の関係であることも、兄貴分として振る舞う時と、弟分としての振る舞う時の、主人公のキャラクターの二重構造を際立たせていたように思う。
ラストは、一応、ハッピーエンドと考えてよいのだろうが、主人公があれだけ残酷な仕打ちを受けていたので、金歯が印象的な半グレのボスだけでなく、主人公を陥れたその手下にも、肉体的に痛い目に遭ってもらいたかったと思えてならない。
それから、まさかあの男が刑事だったとは思い付かなかったが、ラストは、刑期を終えて、真っ当な暮らしを送っている3人(+兄貴分の恋人)が、皆で食卓を囲んで鯖の味噌煮を突ついているシーンにして欲しかったと思ってしまった。
裏社会ノワールの傑作。役者が役にハマり過ぎてる幸福!!
釜山国際映画祭で、北村匠海、林裕太、綾野剛が最優秀俳優賞を
受けたとの報告が9月末にありました。
最優秀俳優賞‼️えっと思いましたが、
この映画を観た今日(10月24日)、
それがいかに正しいかが、心から納得出来たのです。
キャスティングが最高でした。
演じた3人の役へのアプローチが凄すぎる。
私には、配役が当て書きのように3人意外に考えらないほど
ハマり役でした。
ノワール映画の傑作。
映画は前半ちょっと取り止めがなく、ヤクザの下っ端の
マモル(林裕太)と、タクヤ(北村匠海)が、
戸籍売買の客に偽免許証を渡したりする様子が描かれたり、
タクヤがマモルとふざけてツルむ様子を3日間の時間経過がバラバラに
描かれます。
①がマモルの章
②がタクヤの章
③が梶谷剣士(ケンシ)の章
梶谷の綾野剛は前半殆ど出てこなくて、アレレと思ってましたが、
後半は梶谷無くしてこの映画は成立しません。
梶谷はタクヤを闇家業に誘い入れた先輩ヤクザです。
《不穏な出来事》
マモルが兄貴分からタクヤの部屋の掃除を命じられます。
おびただしい血痕の汚れた部屋。
不吉な予感は、想像を超える事件が‼️
そしてその結果、
梶谷とタクヤのロードムービーのように転換して行きます。
タクヤとマモルそして梶谷に生まれていた絆。
それは彼ら達が考える以上に強固な絆だったのです。
弟を病気で亡くしたタクヤのマモルへの想い。
ヤクザ家業から抜け出そうとしていたタクヤ。
それを知る梶谷。
梶谷もまたタクヤへの同情と愛とに、引き裂かれるのです。
とても不幸なストーリーではあります。
愚か者・・・というより、社会からつまはじきにされる
貧しい若者たちへの鎮魂歌。
タクヤの作る鯵の煮付けを食べるシーン。
家族で食卓を囲んだことの無いマモルの嬉しそうな顔。
鯵は、実にキーになるアイテムでしたね。
原作の西尾潤さん、
脚本の向井康介さん、
監督の永田琴さん、
この映画に流れるのは弱者への共感と慈しみだと思います。
(付け加えると、戸籍を売る男役の矢本悠馬さんが、
(珍しくシリアスな役でとて存在感を見せていました)
そしてマモルの弱々しく寄る辺がない姿・・・
・・・それでもマモルの人生は始まったばかり・・・
・・・どんな明日が待ち受けているのでしょう?
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