「どんなに身分が違っても、「アジの煮付けの食卓」は普遍の幸せのかたち。」愚か者の身分 ななやおさんの映画レビュー(感想・評価)
どんなに身分が違っても、「アジの煮付けの食卓」は普遍の幸せのかたち。
第2回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説を、北村匠海主演、綾野剛と林裕太の共演で映画化。
愛を知らずに育った3人の若者たちが闇ビジネスから抜け出そうとする3日間の出来事を、
それぞれの視点を交差させながら描き出す。
本作品は第30回釜山国際映画祭コンペティション部門に選出され、
主演の北村匠海、共演の林裕太、綾野剛の3名がそろって最優秀俳優賞を受賞。
この快挙だけでも作品への期待が高まるが、
スクリーンが暗転した瞬間、その理由に深く納得した。
3人の演技は圧倒的にリアルで、観客を一瞬で作品の世界へ引きずり込む。そこに描かれるのは、少し痛くて、かなり残酷な現実。
けれど、この映画がただの残酷さで終わらないのは、「誰もが共感できる幸せのかたち」をきちんと描いているからだ。
それを象徴するのが、作品中に何度かでてくる「アジの煮付けの食卓」。
そして、半グレの梶谷(綾野剛)を信じて待ち続ける女・由衣夏(木南晴夏)の存在。彼女の存在は、荒んだ現実の中で“人が人を信じる力”を静かに示していたと感じる。
夏目漱石は言った。
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。」
けれど本当に、すべての人が平等なのだろうか?
生まれた環境や境遇の違いが、
そのまま人生の“スタートラインの差”になってしまうこともある。
それでも。
たとえ身分は違っても、みんなで囲むアジの煮付けの食卓は、誰もが望む“普遍の幸せ”の象徴なのだと思う。どんなにヤサグレていても、自分を信じてくれる誰かがひとりでもいれば、人は生きていける。
正しさはひとつじゃない。
答えも、ひとつじゃない。
エンドロールに流れるTuki.の「人生讃歌」もまた素晴らしい。
その歌詞がこの作品の余韻をさらに深めてくれる。
派手な演出はないけれど、
じっくりと役者の演技を味わいたい人、
心に残る物語を求めている人にはぜひ観てほしい。
劇場を出たあと、静かな夜道で、
ふと“自分の幸せのかたち”を考えたくなる——そんな映画です。
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。」
は、夏目漱石ではないかもしれません。
「鯵の煮付け」は、家庭の味の代表格、あの3人にとってあこがれの温かい家庭=幸せの象徴だったように見えますね。
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