劇場公開日 2025年10月24日

「歌舞伎町はだれのことも、拒まない、咎めない、救わない」愚か者の身分 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 歌舞伎町はだれのことも、拒まない、咎めない、救わない

2025年11月3日
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鑑賞方法:映画館

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SNSで女性を装い、言葉巧みに身寄りのない男性たち相手に個人情報を引き出し、戸籍売買を日々行うタクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)。彼らは劣悪な環境で育ち、気が付けば闇バイトを行う組織の手先になっていた。

闇ビジネスに手を染めているとはいえ、時にはバカ騒ぎもする二人は、ごく普通の若者であり、いつも一緒だった。タクヤは、闇ビジネスの世界に入るきっかけとなった兄貴的存在の梶谷(綾野剛)の手を借り、マモルと共にこの世界から抜け出そうとするが──(公式サイトより)。

生い立ちに難があり、ヤクザ稼業や半グレ、裏社会で生きる人間がそのコミュニティの中で疑似兄弟、疑似家族としてつかの間の安らぎを享受する、古今東西(特に日本、韓国、中国に多い気がする)にある王道ストーリー。主演の北村匠海の誕生日に劇場鑑賞。ハッピーバースデー。

歌舞伎町は、はした金をつかんだ輩が奇声を発して走り回ろうが、0時過ぎにカレーを食いに出ようが、工事用のカラーコーンを蹴飛ばそうが、かれらを咎めない、拒まない、救わない。酔客を飲み込む賑やかなネオン街のすぐ側に、金と欲望が至上の価値観である漆黒の世界が併存しており、巧妙な撒き餌に食いついてしまうと、どこまでも堕ちていく、否、墜ちざるを得なくなる。

社会的な無理解や劣悪な家庭環境ゆえに、裏家業の入り口に立つマモルを演じた林裕太がとても良い。怯えたような、相手の心根を探るような眼、歌舞伎町で精一杯粋がって見せつつ僅かな違和感を宿した表情など、どれをとってもマモルに相応しかった。本作では北村匠海の隠しきれない人の好さがにじみ出てしまい、闇ビジネスに手を染めつつある若手としては若干の無理があったように感じたが、梶谷に髪を洗ってもらうシーンは、綾野剛の半ケツサービスショットとともに本作のハイライトであろう。

韓国ノワールを思わせるテーマ設定だっただけに、登場人物それぞれが闇ビジネスを手を染めざるを得なかった生育環境や社会構造、歌舞伎町を象徴するような凄惨な暴力シーンが少し物足りない印象ではあったが、他人様の戸籍を売買していた「愚か者」自身が、自らの身分やアイデンティティを喪失していく物語を端的に言い表しているタイトルが秀逸。

えすけん
えすけんさんのコメント
2025年11月5日

ひなさま、コメントありがとうございます。

英題はBaka’s Identityって言うんですね。知りませんでした。一義的には身分を売り買いしていた愚か者の因果応報、ニ義的には世のしのぶ身分でもなお、信じられる人と一緒にいられることで確立されるアイデンティティ、といったところでしょうか

えすけん
ひなさんのコメント
2025年11月4日

えすけんさま
共感ありがとうございます🙂
こちらからもフォローさせていただきました。

釜山国際映画祭で上映された時、英語のタイトルが“Baka's Identity”で不思議だった理由が、えすけんさんのレビューで腑に落ちました。

マモル役の林裕太さんは、この作品で唯一オーディションで選ばれたそうですが、見事に期待に応えてました。

グロ耐性ゼロの私がギリOKだったのは、女性監督と女性原作者の、母性のような包容力を感じたからだと思います。

「賢者の贈り物」のようなラストと、エンディングの「人間讃歌」に泣きました🥲

ひな