「一度踏み入れたら容易に抜け出せない世界」愚か者の身分 somebukiさんの映画レビュー(感想・評価)
一度踏み入れたら容易に抜け出せない世界
家庭環境などの背景で生まれながら貧困でありまともな社会に属さない者、ある出来事により急にお金が必要になった者などが闇ビジネスへと足を踏み入れてしまう。
その社会問題とともに、一度踏み入れたら容易に抜け出せない世界の恐ろしさ。
そして、特に戸籍売買ビジネスの怖さを描く社会的な作品となっていた。
自分が見ている世界でそんなことが起きているとも想像できない。まるでフィクションのような話が今、令和の日本で起きている実態だと思うと、社会は便利に過ごしやすくなったのか、それとも貧困の差が広がり、闇深い社会が生まれているのか。
自分の見ている社会を疑いたくなった。
本作は北村匠海演じる“松本タクヤ”と弟のような後輩キャラの存在を林裕太演じる“柿崎マモル”、そして、タクヤを兄貴的な存在を綾野剛演じる“梶谷剣士”の3人が一度踏み入れると抜け出せない闇ビジネスの養分となっていく話である。
物語は大きく5章から構成されており、まずはそれぞれ3人の視点、その後物語が大きく動き出す後半の2幕。
ここからは一部ネタバレになるが、
正直全員が闇ビジネスの養分となり、終わりゆく胸糞ストーリーを予想していた。
だが、ここは微かな希望を与えたかったのか、予想は外れた展開となる。
本編には描かれていない梶谷が組織を抜けようとしたけど、抜けることできず諦めた。といいつつ、タクヤの姿を見た時に、諦めたはずの脱退に命をかけて挑む瞬間など、人の想いは脳の判断では制御できない力に変えてしまう。
おそらく甘い考え、綺麗事だと言われるかもしれないが、梶谷が思いとどまったように人間最後は誠実さが勝つと信じたい。
ただ、それぞれが行き着く先はハッピーエンドだよねっと終わらさない着地も含めて良かった。
見終わったまず感じたのは、キービジュアルの印象が大きく変わった。
実際は3人全員で集まることはできず絶望の中で希望を追いかけていた、もしキービジュアルのように3人があの姿で集まることができたらそれは3人が無事に抜けた後の理想の姿だったかもしれない。
ストーリーはもちろんだが、主演だけでなく登場してくる全キャスト陣の演技も素晴らしかった。
特に、出演シーンの半分は盲目となっている北村匠海の演技は見ていて辛く痛々しく、非常に難しい制限された中で演じているように見えたが、実は本人自身は自由度が増したとコメントしている。さすが日本映画会を支える俳優の1人と言える人物だと改めて認識させられた。
また、少し前まで明るいイメージだったが大河ドラマ「べらぼう」では純粋さゆえの闇落ちしてしまった演技など、幅広い役をこなす矢本悠馬が今作でも未来が見せない絶望に満ちた切ない人物の存在感を見せていたし、緊迫した絶望的な空気でも、声だけでどこか日常の空気をか持ち出す木南晴夏も素晴らしかった。
こわもて三人衆の凄みもすごかった。
永田琴監督自身が監督として再デビューのつもりでとった。技術面の作品は経験したから、これからは何を撮るのかというテーマを重視したというインタビューが印象的。
若者の貧困と闇バイトを描いた社会的メッセージを含んだ今作に続き、これからの永田琴監督の作品に注目したい。
