劇場公開日 2025年10月24日

「示唆的なタイトルだなー、と思ったら、実はそのまんまの内容だった、という一作」愚か者の身分 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 示唆的なタイトルだなー、と思ったら、実はそのまんまの内容だった、という一作

2025年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

主人公の二人、タクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)は、戸籍売買などの犯罪に手を染めつつどん底からはい出そうとするものの、組織の上層部からはしょせん使い捨て要員のような扱いしか受けておらず、最初から破滅の予感しかしません。

タイトルの「身分」って、タクヤとマモルが置かれた状況についての比喩表現なのかな、と思っていたら、彼らが手を染める戸籍売買という手法を通じて、全編にわたって「社会的な身分を失うとどういうことになるのか」「新しい身分を手に入れるとはどういうことなのか/それで何が変わるのか」を描いていきます。つまりタイトルそのまんまの映画だったのです。

タクヤとマモルを取り囲むヒリヒリとするような状況を描いていく序盤から中盤にかけての描写が秀逸。合間に差しはさまれる回想場面は、単に二人の人物像を掘り下げるだけでなく、映画的な仕掛けともつながっています。例えばタクヤとマモルが食卓を囲む場面。ここでの情感演出、そして作劇的な使い方はとても巧みです。裏返して言えば、衝撃的な転換点を経ての中盤にかけては、追いつ追われつの緊張感は高まりつつもディテールの面白さがやや陰りを見せ、、おさまりの良い着地点に向けていろいろ端折ったような粗さが目立っています。

特に希沙良(山下美月)や由衣夏(木南晴夏)といった重要な女性のサブキャラクターの扱いがちょっとおざなりだったのが気になるところ。永田琴監督のこれまでの作品を踏まえると、この点こそ力入れて描きそうなもんだけど…。

北村匠海も林裕太も、そして綾野剛も、犯罪に手を染めないと生きていけない男たちの悲哀をそれぞれの演技で表現しており、彼らのファンなら見て損はないはず。ただし北村匠海のファンは中盤で「え”!(絶句)」となるかも。原作を読んでなければなおさら。

yui