劇場公開日 2025年10月24日

「三身一体の妙」愚か者の身分 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 三身一体の妙

2025年10月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

登場人物のほぼほぼが、
なにがしかの悪事に手を染めている。

もっとも主人公たちの行為は
あまりにもさりげなく、誰の身近にもあることのように描かれるため、
観ている側は強く反応することはない。

が、結局は皆々が罰を受ける。
行いに対しての軽重はあるにしろ、
本作ではそれなりに因果律が働いている。

『タクヤ(北村匠海)』は歌舞伎町で
戸籍売買ビジネスを生業にする若者。
SNS上で女性になりすまし、
コンタクトして来た男たちに話しを持ち掛ける。

年下の『マモル(林裕太)』は『タクヤ』の誘いを受け、
同じビジネスに手を染める。

『タクヤ』に戸籍売買のやり方を教えたのは、
裏の便利屋として働く『梶谷(綾野剛)』。
もっとも彼は『タクヤ』を裏社会に引き入れたことに
後ろめたさを感じている。

若い二人が犯罪に手を染めた元凶は貧困。
わけても『マモル』のそれは、
ネグレクトも絡み生々しい。

ただ、犯している罪を除けば、
共に酒を呑んでバカ騒ぎをする、
イマドキの若者と何ら変わることはない。

作中では過去と今が、
静かな筆致で語られる。

主要な三人はどこかしら似ている。

目下の者を思いやる心や女性への優しさ、
旨いものには素直に感動するところを含めて。

実際は一つの人格を
物語り進行の都合上、
三つに分けている印象を受ける。

これだけ悪について分け入っているにもかかわらず、
暴力的なシーンは僅か。

一方で直截的に描写は無くても、
後の事態の方がより恐ろしい表現はあり。

静謐さと併せ、
本作の特徴かもしれない。

『タクヤ』が自身へ嫌疑が掛かることを予感したことから、
物語りは大きく動き出す。

出し抜く手立ては鮮やかも、
大きく我が身を損なう代償を支払う。

瞬間、三人が一体となるのだが、
最後のシーンを含め「もののあわれ」を感じずにはいられない。

狭い裏社会を支配する大人たちへの
若者の一種のレジスタンスにも見える。

原作は六年前に発表された小説も、
時代とのシンクロに驚かされる。

優れた作品には往々にしてあることだが。

一度犯してしまったら、
逮捕されるまで辞めることができない「闇バイト」の例は相似。

加えて、戸籍を買う側の理由が
つい最近に起きた補助教員による
教職員免許詐称事件と同じなのには背筋がうすら寒くなった。

ジュン一
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