劇場公開日 2025年10月24日

「負の連鎖と優しさの継承」愚か者の身分 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 負の連鎖と優しさの継承

2025年10月26日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

■ 作品情報
永田琴監督作品。主要キャストは、北村匠海、林裕太、綾野剛。共演に山下美月、矢本悠馬、木南晴夏など。脚本は向井康介。原作は西尾潤の同名小説。

■ ストーリー
身寄りのない男たちを言葉巧みに欺き、戸籍売買ビジネスで生計を立てるタクヤと、彼を慕う弟分のマモル。彼らは劣悪な環境で育ち、半グレ組織の手先として裏社会に深く足を踏み入れている。しかし、タクヤは、自身をこの闇の世界に引き込んだ兄貴分的存在の梶谷の力を借り、マモルと共に裏社会から抜け出そうと試みる。折しも、組織の拠点から大金が消失し、これをきっかけに、タクヤ、マモル、梶谷の三人は運命を左右する三日間の逃亡劇へと巻き込まれる。三人は、互いへの信頼と、過酷な裏社会の現実の間で揺れ動きながら、生き残りをかけて必死にもがき続ける。

■ 感想
一つの事件を巡り、それが三人の登場人物それぞれの視点から描かれることで、彼らの抱える葛藤や心情に深く寄り添うことができます。おかげで、観終わった後もずっしりと心に残る、なんとも言えない息苦しさを感じる作品です。

梶谷からタクヤ、そしてマモルへと連なる犯罪への加担は、紛れもない負の連鎖です。しかし、その底なし沼のような状況の中でも、悪党になりきれない彼らに見え隠れする「優しさ」が、この負の連鎖を「優しさの継承」と錯覚させるほどに印象的です。

身近で困窮する青年を弟のように思い、何とかしてその苦境から救い出してやりたいと願う彼らの姿には、確かに深い優しさがあります。しかし、犯罪の片棒を担がせること以外に救う手段を見つけられなかったという切なさや悲しさが、胸に迫ります。一度は引き込んでしまったものの、そのことを悔やみ、まっとうな道に引き返させたいと手を差しべるその姿は、じんわりと心に沁みるものがあります。

出演されている俳優陣に一切の隙がなく、観る者を圧倒するような迫力があります。おかげで、最後まで作品世界に没入することができます。特に、名だたる俳優陣の中で、若手の林裕太さんの奮闘が光っており、その存在感と演技力は、今後の活躍を期待させるものがあります。

誰もが最初から好き好んで犯罪に手を染めるわけではない。やむにやまれぬ事情を抱える人々がいるという現実を、本作は突きつけます。それでも、私たちは踏みとどまって生きていかなければならない。戸籍も心も、決して他人に売っていいものではないのだと、本作は強く、そして静かに訴えかけてくるようです。

おじゃる
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