劇場公開日 2025年10月24日

「奴等が悪いで済ませたら鑑賞した意味ないですよ」愚か者の身分 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 奴等が悪いで済ませたら鑑賞した意味ないですよ

2025年10月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

 目の覚める衝撃の秀作! 林裕太・北村匠海・綾野剛の3様の描く複眼的構成によりオゾマシイ現実の醜悪が浮かび上がる。ことにも最も若くあどけなさを漂わせる林裕太がヒリヒリと皮膚感覚で観客に訴えてくる。開巻しばらくはセリフが聞き取り難く何言ってるのか?状態ですが、別に途中からセリフが技術的に明瞭になるわけないですが、次第に画面だけでセリフなんかどうでもいいや、となってくるのが凄いのです。

 貧困が見え難い所で増殖してしまっている今の日本、子供に限れば約9人に1人が貧困に直面しているわけで、先進国の中でも最悪。これがニッポンの現実なんですね。本作のマモルが言う「給食で腹いっぱいに・・・」と、だから夏休みなど却って困るわけです。本作の根底にはそういった境遇に生まれてしまった子供の不幸が横たわっている。この苛烈な描写を伴う本作はそういった社会の歪を実質告発しているわけで、言い換えれば政治の貧困に他ならない。

 否応なしにごく一部でしょうが、こうした泥沼に足を踏み入れてしまう、まるで蟻地獄に吸い取られるように。始めは甘い汁で引き寄せ、気が付いたら引き返せない世界。そんな世界に嫌気がさし始めた3人の若者をそれぞれの視点で巧妙に描く。原作の構成がどぅなっているのか知りませんが、マモル・タクヤそしてケンシの順に視点を変えて同一事象を「羅生門」的に表現。各人の視点と言うより、観客に重層的に現実の奥底を覗かせているような秀逸な表現が圧巻です。

 伝統的な日本のおかずである魚の煮付けが2種3度出てくる。高級そうな料理屋で仕事の指令役が煮つけの目玉を食す。あとはタクヤがおばあちゃんの味として器用に鯵の煮つけを作り、最初はマモルが感激し、2回目にはケンシが美味いと喜ぶ。この構成も見事なもので、しかも「目玉」が衝撃に転ずるなんて思いもよらない恐ろしさ、ちょっと耐え難い程です。

 金・金・金の渦中に、3人三様の本質的優しさが徐々に滲みだす。当然に組織からすれば邪魔そのもので、命がけで執拗に追い回す。思わぬところで警察の存在も描かれ、バランスはしっかりとってます。暴力団の下っ端組織としての反グレが主人公で、その実態は驚くばかり。だから反グレになったらダメよ、なんて啓蒙は無意味でしょ、だってそんな予備軍達は映画館なんぞそもそも行かない、行けない、行く気もおきない、でしょうから。

 監督は永田琴、お名前から女性かと、お初ですが凄い力量をお持ちのようで、冒頭とラストを川で描き、人生の境界線を暗示するなど、素晴らしい。この手の作品に多い手持ちカメラによるブレブレ画面なんぞ一切なし、そしてよくぞ歌舞伎町でロケーション出来たものですよ。時系列をバラバラにした上での組み立てもよく考えられて驚きました。

 ただ、3人の過去なり夢なり希望なり、少しでも描いていればより・・・と思うけれど、安っぽくなりそうで、最小限のセリフだけに留めたと思います。向井康介の脚本が本作の屋台骨ですね。あの「リンダ リンダ リンダ」2005年から、「ある男」2022年で国籍売買を扱い、今年の「悪い夏」2025年では北村匠海と、そういえば「ピース オブ ケイク」2015年で綾野剛ともタッグを組んでますね。来月公開の「平場の月」も彼が脚本って凄すぎます。

クニオ
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