「愛する人の人生を永遠に支配することで、最上級の幸福を手に入れられるのかもしれません」恋に至る病 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
愛する人の人生を永遠に支配することで、最上級の幸福を手に入れられるのかもしれません
2025.10.25 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(109分、PG12)
原作は斜線堂有紀の同名小説
被支配構造を恋愛に持ち込んだスリラー映画
監督は廣木隆一
脚本は加藤正人&加藤結以子
物語の舞台は、神奈川県にある塔の森高校
親の転勤で引っ越しばかりしてきた高校生の望(長尾謙杜)は、7回目の引っ越しが最後だと言われていた
海沿いの街に引っ越した彼は、向かいに同年代の女子・景(山田杏奈)がいたが、引っ越し当初は挨拶さえもしなかった
望はコミュ障というわけではないが、引っ越しのたびに人間関係がリセットされることで安心を得ていた
転校初日、壇上で自己紹介をすることになった望だったが、うまく言葉が出てこなかった
それを見かねた景は「知り合い」であることを強調して助け舟を出した
望は景を認知していなかったが、彼女は自分の家の向かいに住んでいて、景は望のことを覚えていた
景はクラスじゅうに愛されている人気者で、クラスメイトの根津原(醍醐虎汰朗)は彼女に好意を抱いていた
だが、景と距離を縮めていく望に苛立ちを覚え、2人きりで水族館に行ったことを機に、それが攻撃へと変わってしまう
景は根津原に止めるようにいうものの、逆に景も仕打ちを受けることになり、望はそれを知ってしまうのである
映画は、望をいじめていた主犯格の根津原が突然自殺をするところから動き出す
望は景が何かを知っているのではと思って探りを入れると、彼女は「自分が殺した」と告白をする
望は自分のために根津原を殺したと思い込み、彼女のためにヒーローになると宣言をする
だが、それはこれから起こる悲劇の序盤でしかなかったのである
映画には、死にたい若者を自殺に誘導するゲームというものが登場し、その参加者が最終的に自殺してしまうという設定があった
それにハマる若者たちを描きつつ、このゲームを作ったのは誰なのかというミステリーも描かれていく
劇中では中学校の教諭(長尾拓磨)が犯人として逮捕されるのだが、それは身代わりのようなもので、閉鎖されたサイトは「偽サイト」などを含めて復活を遂げていた
映画では、その首謀者が景であるとは断言しないのだが、そこは察してねレベルで説明を省いているように思えた
恋愛関係における支配と被支配の構造があって、そこに若者の不安定な感情が混じっていく様子を描いていく
彼らは「次の人生では良くなる」と信じている部分があり、ゲームでも「選ばれた」という感覚を植え付けていく
小さな成功体験が積み重なって自分には価値があると信じ込み、転生に対して必要なカリキュラムを続けさせているように思える
映画内ではゲームに関する細かな説明はしないのだが、モデルになっているゲームやその派生というものも存在するので、あえてぼかしているのだろう
心理誘導に際して、手を下すことなく自分の意思で行動を起こさせるというものを利用しているのだが、それほどまでに若者の心の中には隙がたくさんあるということになる
そこに付け込むことで道具と化すのだが、道具になっていると気付いた先輩・善名(中井友望)は報復を思いつく
それでも、景にとってはその感情すら道具であり、望にとっての忘れられない人になることを目的としていたのだろう
ラストには、無くなった消しゴムが彼女の宝箱から見つかるのだが、それはきっかけすら彼女が作っていたことの証拠であり、自分に好意を寄せている根津原を使うことで、望にとって必要不可欠な存在になろうとしていた
随所にその仕掛けが施されているので、ある程度の経験値がある人ならば「景の張り巡らせた罠」というものに気づけると思う
その視点だと刑事(前田敦子)の憤りが理解できるのだが、それすらも滑稽と思うのが、現代的な感覚なのかもしれません
いずれにせよ、転生をするかどうかは置いておいて、景自身は他人にそれを信じ込ませても、自分自身ではそれを否定しているのだと思う
彼女にとって、今世で何を成し遂げるかが重要であり、彼女自身が好意を持った相手の人生を奪うことができるかどうか、というのがゲームになっているように見える
彼女は何度も救急車を呼ぶことを止めるのだが、それは望に行動と絶望を促すためであり、自分の存在が絶対的なものであることを植え付けるために行なっていた
それを自分の命と引き換えにできる感覚は理解不能なのだが、彼女のロジックではそれが正解なのだろう
これらの心理的な現象は「自分が社会の中にどんな存在価値を残せるか」という若者特有の感覚であり、その最上級の思想なのだと思う
それゆえに、若年世代にはバズり、大人には意味不明と映ってしまうのではないだろうか
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