エレファント・ゴッド

劇場公開日:2025年7月25日

解説・あらすじ

「大地のうた」「チャルラータ」などで知られるインドの世界的映画監督サタジット・レイが執筆した全35作の児童向け人気小説「探偵フェルダーシリーズ」を、1974年の「黄金の城塞」に続いてレイ監督が自ら映画化した冒険コメディ。

聡明な私立探偵フェルーと従弟の少年トプシ、冒険小説作家のラルモハン・ガングリーは、休暇を過ごすためヒンドゥー教の聖地バラナシへやって来る。そこで彼らはある男から、事件の解決を依頼される。それは、ネパールの王子から譲り受けたという家宝の金のガネーシャ像が盗まれたというものだった。調査を進めていくなかで、フェルーは事件の重要な手がかりを知る少年ルクと親しくなる。卓越した分析力と洞察力を武器に真相へと迫るフェルーだったが、やがて事件の背後に潜む陰謀に気づく。

主人公の探偵フェルー役に、レイ監督作の常連俳優ショウミットロ・チャタルジ。日本では、レイ監督のデビュー70周年を記念した特集上映「サタジット・レイ レトロスペクティブ 2025」にて、25年7月に劇場初公開。

1979年製作/122分/G/インド
原題または英題:Joi Baba Felunath
配給:グッチーズ・フリースクール
劇場公開日:2025年7月25日

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

  • 画像1
  • 画像2
  • 画像3
  • 画像4
  • 画像5

COPYRIGHT 1979 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL

映画レビュー

5.0象の頭を持つ像にぞっとするミステリー

2025年8月2日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

ドキドキ

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする 1件)
共感した! 1件)
ユッキー ウッキー(略して ユキウキ)

3.0インド版「明智探偵&小林少年」! サタジット・レイ原作&監督の児童向け冒険探偵もの。

2025年7月28日
PCから投稿

インド・ベンガル語圏映画の巨匠サタジット・レイが、長年にわたって児童向けの探偵小説シリーズを監督業と並行して執筆していたことは、本格ミステリ・ファンのあいだではそれなりに知られている事実かもしれない。
今回、パンフを読んで初めて、サタジット・レイにとって児童文学の執筆というものは「代々引き継いできた家の稼業」だったことを知った。
じつは、彼の祖父ウペンドロキショルは子供向け雑誌『ションデシュ』を創刊した編集者・印刷業者であり、父親のシュクマルも児童文学作家・挿絵画家として名を遺した人物だったらしい。サタジット・レイが生涯、児童文学の執筆と映画化に意欲を燃やし続けたのは、まさに祖父と父から引き継いだ事業だったからである。
パンフによれば、彼は1961年に『ションデシュ』を復刊し、表紙や挿絵を手掛けながら、自作の小説を多数掲載したそうだ。そして、その一本がまさに今回映画化された「探偵フェルダー」シリーズというわけだ。

ちなみに、なんと『エレファント・ゴッド』の原作には邦訳まであるようだ。
『消えた象神(ガネーシャ) 』の邦題で、1993年に西岡直樹さんの訳でくもん出版から発行されている(もちろん未読ww)。本作の前作でシリーズ第一作にあたる作品の翻訳も『黄金の城塞』の邦題で同じ版元から1991年に出ていて、こちらにもサタジット・レイ本人による映画化が存在する。

― ― ― ―

シリーズ名としては「フェルダー・シリーズ」というが、「フェルダー」というのは「フェルー兄さん」という意味合い(助手のトプシがその呼び名で呼びかける)。探偵役の名はフェルーという。

実際に観た印象でいうと、中身自体はそこまで大したものではなかった(笑)。
メインとなるガネーシャ像の盗難事件自体、事件としては小粒だし、驚くような推理が展開されるわけでもない。
むしろ、名探偵と助手、冒険小説作家のトリオの掛け合いと、捜査の合間に披露されるギャグ、思いがけず胸を打つ美しい街の風景やインドの習俗をゆったりと愉しむ映画というべきだろう。
ちょうど日本でいえば、名探偵明智小五郎の出てくる「少年探偵団」シリーズの布陣で、内田康夫や西村京太郎や「湯けむり殺人」シリーズのような「地方観光地めぐり」をやっているといった感じか。

探偵フェルーはシャーロック・ホームズを意識したキャラクターというだけあって、フェルー役のショウミットロ・チャタルジは、グラナダTV版でシャーロック・ホームズを演じていたジェレミー・ブレットとなんとなく雰囲気が似ている。あとは日本人だと、若い頃の西田健とか本郷功次郎みたいな感じ。
濃ゆいが理知的な顔立ちで、役にぴったりの雰囲気だ。
(ポスターアートで、インドの名探偵ってこんな行者みたいな見た目してんのかよ??って度肝を抜かれたが、なんのことはない、ババの礼拝に参加するためのそのシーンだけの「変装」姿でしたw ちょっとそれ詐欺なんじゃないの?)
謎がすべて解けたときの鋭い眼光や、その背後でぶわっと鳩が飛び立つあたりの描写は、なかなか探偵もののキモを押さえていてカッコいい(「飛び立つ鳩」のショットは、この物語の象徴的なシーンとして冒頭で登場し、ラストでも改めてリフレインされる)。

名探偵フェルーもじゅうぶんにカッコいいが、彼と行動を共にする冒険小説作家のおっちゃん、ラルモハン・ガングリーがコミックリリーフとして抜群の冴えを見せる(ショントシュ・ドットが好演。日本でいえば荒井注とかがやりそうな役回り)。これにフェルーの従弟で優秀な探偵助手の青年トプシを加えた三人が、インドの古都バラナシで、事件の謎を追う。

一応ミステリとしては、先に大したことのない内容とは書いたが、この事件で大きなカギを握る人物が今現在夢中になっていることや、作中での動線はほぼきちんと紹介されており、最後の謎解きをきくとまあまあ納得がいくフェアな作りとなっている。アイディアの元となったものについても、ちゃんと中盤ではっきり言及されてるしね。
ただ、こんなくだらないたくらみに巻き込まれたせいで●●●しまう彫刻家のおじいちゃんがひたすら可哀そうで、そこは少しバランスの悪い話だとも思う。

むしろ、本筋とはほぼ関係のない、ホテルで同部屋になったボディービルダーとのやりとり(名探偵フェルーは大きな鏡が部屋に持ち込まれていることから、同室の男の正体が、胸毛を剃るところを鏡で確認する必要のあるボディービルダーだと喝破する。いやそれ無理あんだろ!ww まあそれよりも壁にかかっているエキスパンダーのほうが重要な推理の根拠なんだろうけど)や、悪漢が脅かし用に連れてきた目の悪いナイフ投げ男とラルモハンの繰り広げる、無声映画を彷彿させるようなスラップスティックなどのほうが、印象に強く残るかもしれない。

― ― ― ―

●タイトルロールの中央に四つの円、周縁部に四角いマスが並ぶ画面構成に、インド方面に曼荼羅のルーツはあるんだなと改めて思わされた。

●撮影技法は、とても子供向けの映画とは思えない丁寧なもので、陰影を強調する画面づくりや、とくに対象人物を逆光に置いて顔を陰にぼかすような撮り方は、明らかにフィルム・ノワールからの影響を感じさせる。

●バラナシの街全体がまるで地上の迷宮のようで、物語の舞台として極めて魅力的。水と丘と狭い路地と古建築が密集するところが、なんというか、ちょっと尾道っぽいというか(笑)。とくに探偵フェルーが某人物を尾行するシーンの、とろけるようなノスタルジーの素晴らしさたるや!

●本作で描かれた「ババ」の描写は、このあと続けて観た『聖者』(65)の問題意識をおおむね引き継いでいる。かといって、「宗教はインチキだ」と声高に言っているわけではなく、ヒンドゥー教の古都を舞台として神像をめぐる攻防を描いているだけあって、インド古来の宗教に対する愛着やこだわりも随所に感じられる。

●敵陣に乗り込む際の「変装」ぶりは、まさに少年探偵団のテイストで上がります!

●クラシックの素養があったサタジット・レイは、多くの監督作品において作曲も担当しており、本作にも監督本人による音楽がつけられている。クラシック音楽とインド音楽をうまくミックスしたような(どちらかというとクラシックの要素が勝っている)バランスのとれた音楽は、そのままサタジット・レイの映画作法とも通底していて興味深い。

●ただし、いかんせんこの程度の内容の映画で、122分の長尺で拘束されるのは、さすがに長すぎる。これが70分くらいのプログラム・ピクチャーとして小気味よいテンポ感で仕上げられていたら、作品の評価もずいぶんとあがったと思うのだが。

●なんにせよ、世界の巨匠といわれる映画作家が、児童向けの冒険活劇を楽しそうに書き、さらにそれを原作として、楽しそうに映画を撮っている様子はじつに微笑ましい。
思えば、日本における森下雨村、小酒井不木、江戸川乱歩、海野十三や、海外におけるロバート・アーサー、ロアルド・ダール、ジョン・グリシャムなど、基本は大人向けのミステリを執筆しながらも、少年少女向けの探偵冒険小説執筆にも強いモチベーションをもって挑んだ作家はたくさんいる。
サタジット・レイもその一人だったと知って、僕の中では猛烈に、この映画作家に対する親近感が増している。

コメントする 5件)
共感した! 3件)
じゃい