「計画を遂行する場所に大きな意味があり、それを決定させた現在進行形の罪は重い」MELT メルト Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
計画を遂行する場所に大きな意味があり、それを決定させた現在進行形の罪は重い
2026.7.31 字幕 アップリンク京都
2023年のオランダ&ベルギー合作の映画
原作はリゼ・スピットの小説『Het Smelt』
幼少期の事件に苛まれる女性と無関心を装う大人を描いたヒューマンドラマ
監督はフィーラ・バーテンス
脚本はフィーラ・バーテンス&マールテン・ロイクス
原題は『Het Smelt』で「溶けている」、英題の『When It Melts』は「それが溶けるとき」という意味
物語は、ベルギーのブリュッセルにて、カメラマン・ジョエル(Jean-Jasques Rausin)のアシスタントをしているエヴァ(シャルロット・デ・ブライネ、幼少期:ローザ・マーチャント)が描かれて始まる
ジョエルはエヴァとの関係を深めたいと考え、仕事終わりに飲みに誘うものの、彼女はいつも「妹と先約がある」と断っていた
エヴァの妹テス(フェムケ・ファン・デル・スティーン、幼少期:アンバー・メットデペニンゲン)は姉の家に頻繁に遊びにきていたが、自立して新しい家に引っ越すことになっていた
引っ越しを手伝うことになったものの、エヴァはそこに父(セバスチャン・デワエレ)と母(ナオミ・ヴェリサリウ)の姿を見つけてしまった
帰ろうとするエヴァに対し、テスは「私のために手伝って」と言う
エヴァは両親と距離を置いていて、話題にするだけでも不機嫌になってしまう
テスは引き留めることを諦め、エヴァは引っ越し祝いを渡そうとするものの、「自己満足ね」と言って受け取らなかった
そんな折、彼女のFacebookに1件のメッセージが届いた
それは幼馴染のティム(スペンサー・ボガード、幼少期:アンソニー・ヴィット)からのもので、内容は親友のラウレンス(サイモン・ファン・ブイテン、幼少期:メタイス・メーレンス)と一緒に飲食店を開いたと言うものだった
そこには、店の開店祝いと彼の亡き兄ヤン(Willem Loobuyck)の追悼を行うと言う告知がなされ、そのパーティーへの誘いの打診が行われていたのである
物語は、エヴァの回想を中心に進んでいき、どうしてこのような状況になったのかとか、製氷機で作った巨大な氷の塊は何のためにあるのかを紐解いていく
当時13歳だったエヴァは思春期を迎え、ティムに恋心を抱いていた
何とか関心を持ってもらおうと思うものの、全く相手にされず、女の子としては見られていなかった
ティムは女性の体に関心を持っていて、寄宿学校で覚えたと言うゲームを色んな女の子を相手に仕掛けていた
それは、クイズを出して、答えられたらお金がゲットでき、間違えれば服を一枚脱ぐと言うものだった
だが、そんな無謀なゲームはうまくいくはずもなく、そこでティムは相手を安心させるためにエヴァを巻き込んでいく
エヴァもティムの気を引きたいがために、出題するクイズを考えるようになっていった
映画は、そのゲームによそから来たエリザ(シャーロット・ファン・デル・エーケン、成人期:オルガ・レイアーズ)を巻き込むところで事件が起きてしまう
ティムはエリザに興味を持っていて、そこでエヴァは彼女と仲良くなろうと努力を重ねていく
エヴァはエリザにティムに興味があるかを確認したかったが、逆に自分自身がティムに恋していることを悟られてしまう
エリザに化粧を教えてもらったり、洋服を貰ったりしていく中で関係を深めていくものの、彼女の愛馬の急死に関連したこと、それをティムたちに伝えたために、さらに凄惨な事件を引き起こしてしまうのである
公式HPには注意書きがあるのだが、もっとはっきりとポップアップで出るぐらいでも良いと思った
幼少期のみならず、暴行を受けた経験のある女性は観ない方が良いし、エヴァ自身の結論と言うものも、それで良いとは思えない
彼女はティムの店ではなく、ラウレンスの母マリー(フェムケ・ヘイエンス)の店で実行するのだが、これには明確な意図があった
それは、エヴァの暴行事件を知りつつも息子のために隠蔽をし、エヴァを突き放したからである
そして、成人になって店の客として応対した際にも、ラウレンスよりも先に気づいたのにも関わらず「気づかなかった」と言い放ってしまう
この過去と現在のマリーの言動は人としてあるまじき行為であり、それがエヴァを苦しめてきたものの正体だった
母親がテスよりも軽んじているとか、ティムにフラれたことなんかよりも、マリーが自分の味方になってくれなかったことの方が何倍も尾を引いている
これが彼女の怒りの原点であり、それが死に場所の選定に大きく関わっていると言えるのではないだろうか
いずれにせよ、かなり重い内容で、ずっと胃の辺りがキリキリし続ける内容だった
両親の所業も大概だと思うが、あのような短気な父、アル中の母と言うのはどこにでもありそうな風景に思う
母がテスを可愛がってエヴァをおざなりにするのだって、多くの長女たちは通ってきた道だった
だが、自分の息子が暴行に加担したと知りながら、「あなたも悪いのよ」と言ってしまう神経だけは意味がわからない
「あなたのような娘がいたら良かった」とまで言って居場所を提供した人が放つ言葉とは思えず、息子を擁護するつもりだったとしても、それが却って息子を未来永劫苦しめることになっていく
また、劇中で多くの人に「失せろ」とか、「どこかへ行け」と言われ続けたエヴァだったが、自身もあの場所で溶けることで、永遠にその記憶を刻みつけることになるのだろう
タイトルは「溶ける」と言う意味で、単純に考えれば見たままの印象だが、人が溶けた場合には氷のように気化して全てがなくなるわけではない
そう言った意味も含めて、あの場所の全てのものに溶け込んでいくほどに、エヴァの怒りは強かったと言うことなんだと思った