「なんとも言えぬ解放感があった。」ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
なんとも言えぬ解放感があった。
「グランド・ブダペスト・ホテル」ほどの快活さや「アステロイド・シティ」のような唐突さはないが、多数の芸達者たちによって演じられたコメディー。
タイトルにあるフェニキアは、地中海の貿易で活躍し、現在のアルファベットの元になる文字を見出したことで知られている。この映画で目指しているのは、ヨーロッパの基軸になるような経済圏を打ち立てることか。地図は、どうみてもフランスだったが。そう言えば、東洋人は目立たなかった。
1950年代、莫大な財産を持つザ・ザ・コルダは、血脈を中心に、鉄道、トンネル、発電など産業のインフラを整備し、一族の150年にわたる繁栄を夢みる。自分の後継者として、9人いる男の子ではなく、修道院に入っている(本当に自分の子供かどうかもわからない)ただ一人の女の子、リーズルを指名する。しかし、国際シンジケートによる資材の価格釣り上げ、襲撃などが次々と押し寄せ、分担金の調整に追われる。西洋音楽でも、150年を一区切りにすると判りやすいと昔、習ったっけ。
途中かなり寝たのかもしれないが、それでも楽しめたのには、二つの理由がある。なんと言っても、主人公が浴槽に浸かりながらオムレツを食べるところからはじまり、最後は自分で調理し、達者に皿を洗うところで終わること。もう一つは、絵画と音楽だろう。
邸宅の部屋、特に寝室にルノワールの「青い服の子供(エドモン・ルノワール)」やルネ・マルグリットの「The equator(赤道)」などの実物が飾られ、スペインの大物が「マハ作品」などを隠し持っていたことが思い出される。秘匿していた秘本なども出てくる。音楽では、最後にIgor Stravinskyの名前が大きく出るが、前半のバレエ音楽「ペトルーシュカ」、最後を飾ったバレエ音楽「火の鳥」の終曲、中盤ではバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」の合唱ヴァージョンがよかった。観客を飽きさせないヴェス・アンダーソン監督のマジックに魅せられる。
