「こんな宿はいやだ 笑」旅と日々 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな宿はいやだ 笑
時代は昭和の半ば頃か、スマホはおろか、テレビさえもない。だけど家電はある。
そして人々のやりとりに「戦争」の話が顔を出さないくらい戦後になった時期。
映しているスクリーンの画面まで、4:3のスタンダードサイズって、昭和の香りしかない映画にしたかったみたいです。
小難しいアート作品の脚本を書いたが、自分に才能のなさを感じて行き詰ってしまった脚本家李さん、気晴らしなのか現実逃避なのか、恩師の急死を機に一人旅で雪国に来るが予約していないからどこも宿はいっぱい、というか、昭和のころは女の一人旅はどこの旅館も泊めてくれなかったらしいです、自〇しにきたのでは、と疑われたらしい。それでやむなく、山越えするような辺鄙にもほどがあるところの一軒の宿を訪ねるが、これがまた。「宿」の体をなしてない。
「こんな宿は嫌だ」なギャグのネタを実写映画化したみたい。
隙間だらけで家の中で息が白い。家と言うより小屋。「宿」を標榜しながら内部は全然片付いておらず、主人が使った食器だの割れた茶碗だのその辺に散乱。お客が来たのに主人はシミだらけのぺっちゃんこな万年床に寝そべって乱暴なため口聞いて、一部屋きりで仕切りもないから李さんはせんべい布団敷いて囲炉裏のあっちとこっち、主人と同じ部屋で寝る。その上主人のいびきがうるさい。夕食にありつけたんだかどうだかわからないけど、とりあえず出たんでしょう、でもお風呂はなさそう。「おもてなし」とかどこの外国の言葉なんだか。
こんなありえない宿屋なのに、自分をモデルに脚本書いたらどうかっていっちゃうんだご主人。有名になったらお客がわんさか来るし、ってそれ以前にせめて「宿屋」にしようか。
その上、真冬で大雪の夜中に、錦鯉盗みに客を同行させるって。。
だけど李さんは嫌がるでもなく、こちらのおもてなしを文句も言わずに受け入れる。
せっかく盗んできた時価数百万の錦鯉が寒さで凍ってしまって、数百万の焼き魚を肴に一升瓶から酒飲んで面白がってわははと笑っている。
ご主人、寒い夜中に歩き回って風邪ひいて高熱出して、不法侵入の捜査に来たパトカーで病院に行っちゃって、一人取り残されても怒ったりもせず、ご主人の万年床を畳んで掃除までして退出。
李さん、つくづく思うけど、アート系の小難しい映画は体質に合ってなかったんだよ。
あなたにはもっとフィットするジャンルがあるはず。とりあえず、書けるようになってよかった。
堤真一のダメご主人が憎めなくて可笑しい。
子供の年齢からすると「父親」としては老け過ぎじゃないかと言う気はしますが。
李さんとどこか通じるものがある。
河合優実主演の映画パートの李さんは、生真面目で自分を追究する悩めるカタいひとだが、「宿」での彼女は生真面目は生真面目なんだが、ご主人とのやりとりがいちいち可笑しい。のびのびしてみたら割とねじが緩めで別人みたいな人じゃないかと、自分でも思ったかも。
ここで数日過ごしたことで、思いがけなく真の自分を知ったのでは。
つげ義春原作の、ちょっとだけシュールでなんとなく温かい、不思議な味わいの映画でした。空気感が良いです。
前半の海の風景と後半の雪の風景、対照的だがどちらも良かった。
波のように寄せては砕けてカタチが定まらなかった李さんの「仕事」に対する方向性が、自分の本当の個性を突き止めて、雪のように、したいように掬って固めていけばいいのだと分かり始めたということだろうか、と思いました。考えすぎかもですが。
三宅唱さん、良き脚本、良き監督でした。
私はこの人の作品好きです。
「PERFECT DAYS」を思い出しました。どちらも日本の風景を切り取っているが、ヴェンダースはどうしてもドイツ人(というか旅人)の視点なのに、「旅と日々」は細胞の一つ一つから日本人の感性が滲み出てくる感じがしました。そこをシム・ウンギョンが演じているところがなんとも面白かったですね。
共感とコメントありがとうございます。李さんが本来の自分に戻れたきっかけがダメダメ宿主なのかも…と思うと人生って分からないものですよね。三宅監督が作りだす雰囲気の良さや間みたいなものが私も大好きです!
コメントありがとうございます。
なんとも鄙びた宿でしたね。
堤真一さんはクレジットを見るまで
分からず東北弁も、なんとなく聞いてました。
今の時代にシュールな体験が出来ましたね。
欧州受けを狙ったあざとい作品。こんな宿屋もいいかもなんて物好きな外人客が来たりする。
錦鯉の養殖やってる新潟の知り合いに聞いた話。
盗難はない。セキュリティ対策は万全。全匹カタログ化されているので売ると足がつく。薬漬けなので不味いそう。
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